地域に寄り添う消費とは 〜『「消費」をやめる』平川克美著 を読んで〜
地域に寄り添う税理士と、地域に寄り添う消費者
本書はウォルマートのような巨大企業と、その巨大企業の影響に苦しむ商店街を例に挙げて、消費という行動についてどうあるべきかを問います。
税理士は、地域の中小企業の方に対して税務サポートをする機会が多く、一方で、全世界に展開しているような巨大企業へ税務サポートをする機会は少ないものです。ゆえに税理士である私は、地域の中小企業である商店街側の立場を意識して本著を読み進めました。
私は税理士として地域の顧問先に寄り添い身近な存在でありたいという気持ちで顧問先に接しており、地域の中小企業に特化した税務の知識を提供しています。
しかし本書を通じて気づいたのですが、自分が消費者という立場の時は、地域の中小企業から購入するよりも、Amazonなどの巨大企業から主に購入していることに気づきました。これは購入する際の便利さや価格などを踏まえてAmazonなどの巨大企業で買っているのですが、果たしてこれは正しい消費なのだろうか。
税理士として地域の中小企業に寄り添いたいという思いとは裏腹に、消費者としては便利さや安さに釣られた消費をすることで地域の中小企業を苦しめていないだろうか。
著者は消費についてこう述べます。『消費というのは、ただより安いものを買うことではなく、もうちょっと違った重要な意味合いがある』そして、『どこの店で何を買い、どういう生活を営むかは、人間のライフスタイルのみならず、地域の経済をつくっていく非常に重要な意味がある』と。消費という行動にこんなにも深い意味があることを知らず、単に消費していた自分を恥じます。
生きていく上で、すべての消費を地域のみで済ますことは現実的ではないかもしれません。しかし、地域で消費することは、地域経済を作るポジティブな行為であることを認識した上で、消費の都度、どこで買うのかを選択したい。そうすることではじめて税理士としても消費者としても地域の中小企業に寄り添うことになるのだろう。
プライベートブランドが日本でも広まって、コンビニでもスーパーでも、あちこちで見かけるようになりましたね。巨大な小売店というのは、小売業であると同時に非常にパワフルな消費者という側面をもっています。圧倒的な物量を買い上げる強大なバイイング・パワー(購買力)で、仕入れ価格を徹底的に買い叩くことができます。そうやって血も涙もない方法で仕入れた品物を、わたしたちが、値段の安さに釣られて買うということは、地場の産業や経済を破壊するのに加担することにほかなりません。
消費というのは、ただより安いものを買うことではなく、もうちょっと違った重要な意味合いがあるのです。マーケティングプランナーが定義するような消費選好のタイプに従順でいる必要はないのです。どこの店で何を買い、どういう生活を営むかは、人間のライフスタイルのみならず、地域の経済をつくっていく非常に重要な意味があるのです。
スーパーではなく路面の個人店で買う人がいる町には強さがあります。路面店には顔を知った親父さんがいる。たしかにスーパーと比べるとちょっと高いけれど、顔見知りの親父さんが売ってくれるものには安心感がある。そこで消費したおカネがどこかで地域コミュニティの存続の役に立っているかもしれない。そういったことを意識しているわけではなくとも、地元に対する愛着もあって少し高くとも我慢してその店で買う。長い目で見たら、それが「賢さ」であり、自分たちの暮らしを守ることにつながります。そうやって地域が一丸となって、利潤第一主義の巨大小売店の進出を阻むしかないのです。
運と経営戦略で成功をつかむ
税理士事務所の経営者になってから経営戦略に関する書籍を読むようになりました。そこで学んだ知識を事務所経営に活かすためです。また、この経営戦略の知識は顧問先へフィードバック出来る可能性も期待できます。自分のため、顧問先のため、経営戦略に関する書籍は意識して読んでいます。
ただし、必ずしも書籍に書かれている経営戦略はそのまま再現できるものではなく、また、仮に再現できるようなものであってもそれが成功に結びつくとは限りません。それもそのはず、経営戦略を実践すれば必ず成功するのであれば経営に苦しむ企業は世の中に存在しません。
では、経営を成功させるにはどうしたら良いのだろう。
経営を成功させるには、優れた経営戦略を立て自分が努力すれば良いと考えがちですが、実は経営戦略を立てるだけでは足らず、運の要素も大きいことを忘れていないだろうか。運と経営戦略は経営を成功させるための車の両輪のような関係だと考えます。したがって、成功するための要因のひとつであるのに見落としがちな運の影響を自分の意識の中で格上げすべきです。
運が巡ってきたのであれば、その巡ってきた運を確実に成功に繋げるために経営戦略を実践することが重要です。この一連の流れを意識して日々経営戦略を磨き、いつでも実践できる状態にしておくことが重要です。
勢いのある企業の経営戦略がもて囃されますが、だからといって、同じ戦略や理論を別の会社で再現できるかといえば、そうはいきません。結局のところ、会社がうまくいくかどうかは人であり、多くの場合、成功のカギは運に支配されているということです。投資会社などというのは、どれだけ小理屈を並べてみても、本質は博打と何ら変わらないということです。
目指すべきは無理のない経営
人口減少、人手不足、景気の低迷など、会社経営が難しい時代と言われます。実際に周りを見渡しても景気が良いという話を聞くことは少ない印象です。これはつまり、これまでのような売上至上主義や規模の大きさを追及することが必ずしも正解ではないことを表しているのかもしれません。
このような背景の中、私たちはどのように経営に向き合っていけばいいのだろう。経営に唯一の正解は無いとはいえ、著者は『これからの日本が目指すべきは、小さな企業と小商いが、大きな儲けは得られずとも、着実に稼ぎを得られる循環をつくること』と述べます。
日本を支えているのは少数の大企業ではなく大多数の中小企業です。
売上や規模を追求するのではなく、地道にそして着実な経営をする事で無理のない経営が可能になります。無理のない経営を目指す中小企業が増える仕組み作りがこれからは必要なのかもしれません。
株式会社というのは経済が拡大しなければ生きていけない存在です。市場がどんどん拡大する、つまり、消費がどんどん増えていくことを前提に、株式会社は成立しています。というのも、縮小している企業の株主なんかには誰もなりたがるはずもなく、株式会社が存続するためには、右肩上がりを続けていなければならないからです。株式会社とは、十七世紀後半の右肩上がりの世界に生まれた生きものなのです。ところが、いま世界では株式会社にとって予想外のことが起き始めています。人口減少です。
日本を支えているのは、少数の大企業ではなく大多数の中小企業です。これからの日本が目指すべきは、小さな企業と小商いが、大きな儲けは得られずとも、着実に稼ぎを得られる循環をつくることです。江戸時代の煙管屋は口先の金具屋、竿の部分専門、先端の金具屋というように細かな小商いに分かれており、そこで小さなおカネを回す仕組みをつくっていたそうですが、こういった方法に学べば人の暮らしも社会も、どちらも無理なく成り立っていくのです。