税理士がお客様に売上を減らすアドバイスをすることの有用性 〜『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』ビル・パーキンス著 を読んで〜
税理士がお客様のために「売上や利益を減らす」アドバイスをすること
税理士は、試算表や決算書を作成しそれを顧問先に報告する業務があります。
報告する際に、過年度比較の試算表や決算書を用いて過去と現在の数字を比べて業績の検討をすることがあります。
この時に誰もが目につくのが売上と利益です。この数字がどう推移しているのか、増えているのか減っているのかが重要な論点となります。
売上や利益の数字が過去と比べて増えていたらそれは喜ばしいこととして顧問先には説明をしてきました。
顧問先が営む事業は商売ですから、売上や利益を増やすことは重視すべきものであるのは当然ですが、果たしてこの考えに終始して良いのでしょうか。
この増えた売上や利益はお客様の健康やプライベートを犠牲にした上で得られたものではないでしょうか。
過去と比べて売上や利益が増えたから商売が順調でありそれは顧問先にとって幸せなことである。こういった単一的な思考からさらに一歩踏み込んで、犠牲となっているのものについても意識していきたい。
税理士による税務顧問とは、お客様と継続したお付き合いになるものです。それはつまり長い期間にわたってお客様の人生に寄り添うといっても過言ではありません。お客様の目先の売上や利益の増減に一喜一憂するのではなく、試算表や決算書で表記された数字の裏にあるお客様の事情、犠牲となっているものを想像する力を持ちたい。
お客様の今後の人生を想像して、もしかしたらそこまで貪欲に売上を増やさなくてもいいんじゃないかというアドバイス、つまり、売上を減らすアドバイスをすることもお客様の人生を考えたらあり得るのではないでしょうか。
これまでの「売上や利益は増やすもの」といった視点の他に、「これ以上売上や利益を増やすことは最善なのか」「犠牲となっているものがあるんじゃないか」といった視点を持ち、広い視野を持ったアドバイスができるようになりたい。
多くの人々が、人生の最後に「働きすぎなければよかった」と後悔するのもそのためだろう。よく言われるように、「人生を振り返ったとき、オフィスで長時間を過ごさなかったことを後悔する人などいない」のである。実際、ウェアが患者から聞いた後悔のなかで2番目に多かったのは(男性の患者では1位だった)は、「働きすぎなかったらよかった」だ。これは、まさに私が本書で主張していることの核心だとも言える。
私たちは金のために忙しく働き、子どもたちと有意義な経験をすべきときが今であることに気づけない。一方で、何かを優先させれば、何かを逃すのは自然の理だ。家族と過ごすその時間は、働いてお金を稼げたはずの時間でもある。その逆も然りだ。つまり、人は大切なことだけに時間を費やすわけにはいかない。すべきこととのバランスを取らなければならない。
人生はテレビゲームとは違って、果てしなく高スコアを目指せばいいわけではない。にもかかわらず、そんなふうに生きている人は多い。
税理士が「自動運転モード」から脱却し、指針を持ったアドバイスをすること
税理士としてお客様と接していると、法人に関するご相談はもちろんのこと、そこから派生して役員個人に関するご相談を受けることがあります。
その役員個人に関するご相談の主なものの一つとして老後に向けた対策があります。例えば保険はどういった商品にどれくらいの保障で加入すべきなのかや、iDeCo、NISA、小規模企業共済などに加入すべきなのかどうかなどです。
老後に向けた対策に関しては絶対的な正解がないと考えます。そのためあくまでも私個人の考え方をベースにしてお客様にお伝えしていくことになります。
さらに、老後に向けた対策となる商品は恒久的なものではなく、保険をはじめNISAなどの投資に関しても日々テコ入れがされています。
こうなると、老後に向けた対策についてはこれを検討した時点での商品をご案内するだけでは満足のいくものではありません。
絶対的な正解も恒久的な商品もないことから、目先の商品内容から老後への対策を考えていくのではなく、まずは自分の考え方、つまり、どのような人生を送りたいのかその指針を決めるべきなのではと考えます。
まずは指針を決めてその指針に沿う商品を探していく。指針があれば、今後、新しい商品や仕組みが出てきても、右往左往することなく、冷静に導入すべきか否かを検討することができるのではないでしょうか。
では、これまで自分は指針があったのかというとありませんでした。目先の商品や老後対策の仕組みなどを学び、その知識からこれでいいのではないだろうか、という決め方をしていました。
学んだ知識を元に対策をしているので問題がないように思えますが、やはりそこには指針となるべきものがないから、周りの考えに影響されやすい。
世の中の老後に向けて資金を蓄えるべきだという風潮に影響を受けて資金を確保しようとしているにすぎません。もちろん老後に向けての貯蓄は必要なのですが、はたして自分はいついくら準備しようとしているのかを明確に決めずになんとなく貯蓄している。これは本書でいう「自動運転モード」に陥っているといえます。知識を得るだけではなくもう一歩踏み込んで指針を定めなければならないと考えます。
指針を定めて「自動運転モード」から脱却する。これが今の自分の取り組むべき課題であり、この指針をもとに行動することが自分の人生を充実させ、さらにはお客様により良いフィードバックすることが可能になると考えます。
「自動運転モード」で生きるのはラクだ。改めて何かを考えたりする必要がないからである。だからこそ、私たちはこのモードを選んでしまう。だが人生を最大限に充実させたいのなら、このモードに留まっていては望むものは得られない。人生を存分に楽しむには、無意識な自動運転をやめ、自らの意思で思う方向に操縦していかなければならない。