なぜ税理士は『ドラゴン桜』を読むべきなのか? 〜仕事の質を高める5つの視点〜

こんにちは。栃木の税理士伊沢です。

『ドラゴン桜公式副読本 16歳の教科書 なぜ学び、なにを学ぶのか』を読み、心に残るいくつかの文章に出会いました。これは学生だけでなく、税理士が仕事に向き合う姿勢にも通じる、非常に重要な指摘だと感じました。

本書の言葉を引用しながら、税理士業務における姿勢や在り方について考えてみたいと思います。

情緒よりも「正しさ」と「具体性」

まず、心に響いたのは「言葉」に関するこの一節です。

美しい文章や感受性豊かな文章を書けることが、国語力の証のようになっている。ベタベタした、甘ったるい文章が「美文」と思われるようになっている。でも、言葉にとって大切なのは、見た目の美しさではありません。なによりも先に「正しさ」なのです。美しさや情緒なんて、しょせんはご飯のふりかけみたいなもので、ベースとなるのは正確無比な文章なんですよ。(中略)とにかく情緒を切り捨てること。事実と論理だけで文章を組み立てていくこと。それこそが、ほんとうの国語力を高めていくポイントなのかもしれません。たとえば、あなたが海外旅行でヨーロッパの古城を見たとします。そして帰国後、友達にその古城の様子を伝えようとするとき、「涙が出るくらいキレイな城だったんだよ」「とにかくカッコイイ城なんだ」と力説してみても、相手はまるでイメージできません。それよりも「どこの国の古城なのか」「その古城は何階建てで、どんな形をしていたのか」「どれくらいの大きさなのか」「木造なのか、石造なのか」といった、客観的かつ具体的な情報があってこそ、伝わっていくのです。

この文章は、税理士の仕事の本質を的確に表しているのではと思いました。税理士がお客様に提供すべきなのは、「なんとなく大丈夫ですよ」といった情緒的な安心感ではありません。「どの法律の、どの条文に基づくと、こう扱うことになります」あるいは、「何々の特例を適用したのでこの数字はこうなります」、「現時点のリスクは具体的にこれで、対策としてはAとBが考えられます」といった、客観的な事実と論理に基づいた「正しさ」と「具体性」です。

「とにかくカッコイイ城」では相手に何も伝わらないように、「なんだか大変そうです」ではお客様の不安は解消されません。事実を正確に把握し、論理的に整理し、具体的な言葉で伝えること。これこそが、税理士の仕事の本質であり、信頼の源泉なのではないかと感じさせられました。

税理士に必要な「数学的思考力」

本書では、数学の本質についても下記のような鋭い指摘がされています。

数学(算数)は、「考えることそのもの」を扱う教科です。そこに出てくる数字なんて、考えるための道具にすぎません。数学の骨格にあるのは徹底した論理であり、「自分の頭をどれだけ働かせることができるか」が問われているのです。(中略)あるいは人間関係においても、たとえば相手の言ってることを理解して、そこに的確な答えを返す。これって要約力や論理性の問題、つまり「数学力」なんですよ。よく、聞かれたことに答えず、自分の言いたいことだけを喋る人がいますね。ああいう人は、性格的な問題もあるでしょうが、なによりも先に数学力が足りていないのです。

税理士は数字を扱う専門家ですが、それは単に税金を計算するという意味ではありません。複雑な事象やお客様の言葉の裏にある本質を捉え、論理的に整理し、最適と考えられる答えを導き出す。まさに、ここで言う「数学力(論理的思考力)」が問われる仕事だと感じます。

お客様の質問の意図を正確に汲み取り、的確な答えを返すコミュニケーション能力も、この数学力が土台となっています。専門知識を振りかざすのではなく、お客様の状況を理解し、論理立てて説明することで、初めて真の価値を提供できるのだと思います。

「できなかったこと」と向き合い、「クレジット」を高める

税務のプロとして成長し続けるためのヒントも、下記のように本書には記載があります。

勉強のポイントは「できなかったことを、できるようにする」ことです。(中略)勉強は自分のペースでいい。とにかく「できなかったこと」を徹底してやる。できるようになるまでやりつくす。足は遅そうに見えるかもしれないけど、これがいちばん確実な近道なんです。じゃあ、夢も目標も見えないのに、なんのために勉強しているのか?なんのために働いていくのか?そして、なんのために生きているのか?僕は「クレジットを高めるため」という言い方をしています。クレジットというのは、他人からもらえる信頼や共感、信任の総量のこと。

税法の改正は毎年行われ、経済状況も刻々と変化します。税理士に「これで完璧」というゴールはありません。常に新しい知識を学び、経験したことのない案件にも挑戦し、「できなかったこと」を一つひとつ「できること」に変えていく地道な努力が不可欠です。

そして、この努力の積み重ねが、お客様からの「クレジット(信頼)」を高めていくのだと思います。高いクレジットがあれば、面白い挑戦の機会に恵まれ、専門家としてさらに成長できるという、まさに好循環です。日々の業務に真摯に取り組むことが、何よりの近道なのだと痛感します。

正解は一つではない時代に求められる「情報編集力」

現代の税理士業務は、過去のやり方を踏襲するだけでは立ち行かなくなっています。

21世紀の日本は十分に成長しきった「成熟社会」です。そこでは「これをやっておけば大丈夫」という、誰もが認める正解なんかありません。(中略)正解がひとつではない問題を前にしたときに、いったいどんな力が必要とされると思う?まず、自分の知識、技術、経験を総動員して、それらを組み合わせ、自分なりの答えを導いていく力が必要になってくる。ここで導き出すのは、すべての人にとっての「正解」ではなく、あくまでも自分なりの「納得解」。この力のことを僕は「情報を編集する力」、つまり「情報編集力」と呼んでいます。

節税対策一つとっても、お客様の事業内容や将来のビジョン等によって「正解」は全く異なります。税法や通達をただ当てはめる「情報処理力」だけではなく、お客様一人ひとりの状況に合わせて、最適な「納得解」を創り出す「情報編集力」が求められています。これは創造的な作業と言えるのではないでしょうか。

揺るがないスタンスと「当たり前」の基準

最後に、プロとしての心構えについての指摘です。

受験に対するアプローチも「どうやったら受かるか?」ではないんです。「受かるのが当たり前」というスタンスでいるから、受かる。(中略)人間の心って「外側(周囲の環境)」と「内側(潜在意識)」のバランスをとろうとする習性があるんですよ。

困難な案件に直面したとき、「どうやったら解決できるだろう?」と不安からスタートするのではなく、「解決できて当たり前」というスタンスで臨む。その揺るぎない自信は、日々の地道な研鑽からしか生まれ無いと考えます。

そして、そのスタンスを支えるために、「プロとして当たり前の環境」を自分で作ることも重要です。整理整頓されたオフィス、税理士としての立ち居振る舞い。そうした「外側」を整えることが、結果的に「内側」の意識を高め、より良い仕事につながっていくのだと改めて考えさせられました。

『ドラゴン桜公式副読本』は、受験生だけでなく、税理士としての在り方を改めて見つめ直すきっかけを与えてくれる一冊でした。「情緒より論理」「具体性」「数学的思考力」「情報編集力」そして何よりもお客様からの「クレジット」を大切に、これからも業務に邁進していきたいと思います。