『思考中毒になる!』齋藤孝著 を読んで

目的を自問自答すること

「今、何のためにこれをやっているのか」という目的を意識している人、つまり考えている人は何をやっても成果を出すことができます。〝何のために〟を常に自問自答することこそが大切なのです。

 『何のために』という目的を意識して税理士業務ができているだろうか。
 こう自分に問うと「お客様の適正な税務申告のために」や「お客様の発展のために」という目的を意識して業務をしていることが挙げられます。これらの目的は税理士として正しいものと言えますが漠然としています。より具体的な目的も意識して税理士業務に取り組む方がお客様への価値の提供につながるのではないでしょうか。たとえば、決算書を作成する場合に「お客様の適正な税務申告のために」や「お客様の発展のために」という目的に加えて「決算書の作成を通じて今期の良かった点と今後の課題を3つずつあげる」といった具体的な目的を意識して取り組む方が、お客様への有用な情報の提供につながります。

社会人も、仕事で解決すべき課題やテーマを明確にしておくことが肝心です。日常的に企画書を書いたり、商品開発を担当したりしているような、すでにテーマが明確になっている人は別として、経理や総務などで事務の仕事をしているケースでは、なんとなく仕事がルーティン化してしまい、テーマが明確でないという人もいるかもしれません。 こうした人は、自分自身でテーマを設定しておく必要があります。

クオリティを気にせず思考の習慣づけをする

 『日本人はクオリティを気にしすぎる傾向があります』
この言葉は私にもあてはまります。たとえばWEB上で自分の思考を発信しようと思っても、クオリティが低い発信は恥ずかしいことと考え、発信することを躊躇し思考の習慣づけができていません。クオリティを問わず発信し続けることを優先し、思考の質を上げていきたい。

日本人はクオリティを気にしすぎる傾向があります。 完全な正解、もしくは不正解のオール・オア・ナッシングで判断してしまい、思考の途中経過を開示するのを極端に嫌がります。「間違っていてもいいから、とにかく考えたことを発表してほしい」と言われると、とたんに困ってしまいます。 これは由々しき問題です。思考のクオリティに気を取られすぎると、中途半端には考えられないというプレッシャーを感じ、ますます考えない悪循環に陥る可能性があるからです。 ですから、最初はクオリティにはこだわらず、とにかく考えたことは中途半端でもいいので、記録する習慣をつけてしまうのが先決です。 まずは思考の習慣づけに、意識を集中させるようにしてください。

発言の意図を芯で捉え、芯で打ち返す力

自分の考えを言葉で表現できない人は、残念ながらこれからの世界では通用しにくいといえます。仕事では、英語ができる、中国語ができるという以前に、意味のある内容を言葉にできる力がますます求められます。

 お客様とはチャットを使ったテキストコミュニケーションをメインとしています。そのため、お客様に文章で「伝える力」が求められ、また、お客様からの質問に回答するため質問の意図を「理解する力」が必要です。 伝える力と理解する力がなければコミュニケーションが成立せず、そのような状態ではお互いの時間が無駄になり、適正な税務申告も不可能となってしまいます。お客様の『発言の意図を芯で捉え、芯で打ち返す力』を意識したい。

グローバル社会では、英語やフランス語などの外国語ができることは重要ですが、それ以上に相手の発言の意図を芯で捉え、芯で打ち返す力が求められます。 言語は、通訳してもらえば意思を通わせることが可能ですが、理解力がないと、そもそもコミュニケーションが成立しなくなるからです。

 

聞いたことを正しく理解して答える力を、普段のおしゃべりだけで鍛えようとするのは困難です。普段のおしゃべりは共感さえあれば、論理的にアバウトでも成立します。しかし、ビジネスやアカデミックな場では論理的な受け答えが求められます。ですから、相手の話や文章を読み解く力を磨く訓練が重要なのです。

議論し思考を発展させる

 私は妻と二人で税理士事務所を運営しています。妻と一緒に仕事をするようになってから8年ほどになりますが、仕事上でお互いの意見が異なることがあります。話し合いの末にどちらが正しいことが明らかになれば良いのですが、悩ましいのは正解のない問題に直面しお互いの意見が異なるときです。この正解のない問題に対しても、話し合いをすることにしています。なぜなら自分ひとりで考え抜き最善策と思う案であっても、話し合いの末にブラッシュアップした案の方が最善策だったことが幾度とあるからです。

頑なに自説を変えないというのは、思考が硬直しすぎています。周りにこういう「頭の固い人」がいたら要注意です。 歴史を振り返ってみても、戦争や対立の多くは「これしかない」という主張の衝突から生まれています。宗教をめぐる紛争が象徴的です。 本当に思考の成果を出すのなら、お互いの意見を踏まえ、矛盾を解消しながら建設的な結論を導き出すのが理想のはずです。その上で、それぞれの識者が、番組開始前と後でどのように考え方が変わったのかを語ってくれれば、思考の成果が明確になると思うのです。自分とは異なる考え方の持ち主と議論をする中で、柔軟に思考を発展させていくのが理想的です。

「アレンジでもいい」ではなく、「アレンジがいい」

 税理士として開業したからには、ほかの税理士がやったことのない「新しいこと」をしなければならないと考えることがあります。しかし「新しいこと」は一朝一夕に思いつくものではありませんし「新しいこと」にとらわれて身動きがとれなくなっては本末転倒です。「新しいこと」を追うのはほどほどに、その代わりに堂々と「アレンジ」を追求する方がお客様へ価値を提供することにつながるのかもしれません。

「アレンジ思考でも十分、それがイノベーションにつながる」ということです。 そう考えると、世の中のイノベーティブな発明の多くが、アレンジによって生み出されていることに気づきます。例えば、「写真」も「シール」も昔から存在しているものですが、それを結合させて生み出した「プリクラ」という商品は、画期的な発明として大ヒットしました。 何かと何かを結びつけてアレンジしただけで、世の中を一変させるような価値を生み出すことは可能です。「ただアレンジしただけ」などと卑下せず、堂々とアレンジを追求していけばいいと思います。「アレンジでもいい」ではなく、「アレンジがいい」なのです。