税理士こそ『自分の中に毒を持て』!岡本太郎の哲学から導く、新時代のプロフェッショナル論

こんにちは。栃木の税理士伊沢です。

芸術家・岡本太郎氏の著書『自分の中に毒を持て』を読みました。著者の強烈な言葉の数々は、私たちの日常や仕事に対する姿勢に、まるで雷のような衝撃を与えてくれます。そして「これは税理士としての業務においても、常に心に留めておくべき姿勢ではないか」と強く感じました。

岡本太郎氏の熱いメッセージを引用しながら、税理士業務における「挑戦し続ける姿勢」や「あるべき姿」について、私なりの考察をしていきたいと思います。

過去の蓄積に安住せず、常に新しく生まれ変わる

税理士は日々の業務の中で、多くの知識や経験を積み重ねていきます。それは税理士として不可欠な財産です。しかし、岡本氏はこう喝破します。

人生は積み重ねだと誰でも思っているようだ。ぼくは逆に、積みへらすべきだと思う。財産も知識も、蓄えれば蓄えるほど、かえって人間は自在さを失ってしまう。過去の蓄積にこだわると、いつの間にか堆積物に埋もれて身動きができなくなる。人生に挑み、ほんとうに生きるには、瞬間瞬間に新しく生まれかわって運命をひらくのだ。それには心身とも無一物、無条件でなければならない。捨てれば捨てるほど、いのちは分厚く、純粋にふくらんでくる。今までの自分なんか、蹴トバシてやる。そのつもりで、ちょうどいい。

税法や会計基準は常に変化し、社会経済の状況もめまぐるしく変わります。過去の成功体験や古い知識に固執していては、お客様に最適なアドバイスを提供することはできません。岡本氏の言う「積みへらす」とは、決して知識や経験を捨てるという意味ではなく、「過去の栄光や固定観念にとらわれず、常に新しい視点や情報を取り入れ、変化を恐れずに自分自身をアップデートし続ける」 ということではないでしょうか。

「今までの自分なんか、蹴トバシてやる」くらいの気概で、常に学び、変化し続ける姿勢こそが、プロとしての成長を促し、お客様からの信頼につながるのだと、この言葉は教えてくれます。

自分自身との闘い – 安易な道を選ばない勇気

税理士の仕事は、時に困難な判断を迫られたり、前例のない問題に直面したりすることもあります。そんな時、つい楽な道や無難な選択をしてしまいがちです。しかし、岡本氏はそんな自分に鋭く問いかけます。

自分に忠実だなんていう人に限って、自分を大事にして、自分を破ろうとしない。社会的な状況や世間体を考えて自分を守ろうとする。それでは駄目だ。社会的状況や世間体とも闘う。アンチである、と同時に自分に対しても闘わなければならない。これはむずかしい。きつい。社会では否定されるだろう。だが、そういうほんとうの生き方を生きることが人生の筋だ。(中略)自分自身の最大の敵は他人ではなく自分自身というわけだ。自分をとりまく状況に甘えて自分をごまかしてしまう、そういう誘惑はしょっちゅうある。だから自分をつっぱなして自分と闘えば、逆にほんとうの意味での生き方ができる。誰だって、つい周囲の状況に甘えて生きていく方が楽だから、きびしさを避けて楽な方の生き方をしようとする。ほんとうの人生を歩むかどうかの境目はこのときなのだ。安易な生き方をしたいときは、そんな自分を敵だと思って闘うんだ。たとえ、結果が思うようにいかなくたっていい。結果が悪くても、自分は筋を貫いたんだと思えば、これほど爽やかなことはない。人生というのはそういうきびしさをもって生きるからこそ面白いんだ。

お客様にとって本当に価値のある提案は、時に困難を伴うかもしれません。既存の枠組みにとらわれない新しいアプローチは、周囲の理解を得にくい場合もあるでしょう。しかし、そこで安易な道を選ばず、「お客様の真の利益のために何が最善か」 を徹底的に考え抜き、たとえ困難であっても正しいと信じる道を貫く勇気。それこそが、税理士としての「人生の筋」を通すことにつながるのではないでしょうか。

自分の中にある「楽をしたい」「無難に済ませたい」という誘惑こそが最大の敵。その敵と闘い続ける厳しさの中にこそ、仕事の面白みや真のやりがいが見出せるのかもしれません。

「危険な道」を選ぶ勇気と情熱

岡本氏は、人生の岐路において、安全な道ではなく、むしろ危険を感じる道を選ぶことの重要性を説きます。

人間はほんとうは、いつでも二つの道の分岐点に立たされているのだ。この道をとるべきか、あの方か。どちらかを選ばなければならない。迷う。一方はいわばすでに馴れた、見通しのついた道だ。安全だ。一方は何か危険を感じる。もしその方に行けば、自分はいったいどうなってしまうか。不安なのだ。しかし惹かれる。ほんとうはそちらの方が情熱を覚えるほんとうの道なのだが、迷う。(中略)危険だ、という道は必ず、自分の行きたい道なのだ。ほんとうはそっちに進みたいんだ。だから、そっちに進むべきだ。ぼくはいつでも、あれかこれかという場合、これは自分にとってマイナスだな、危険だなと思う方を選ぶことにしている

税理士として新しい分野の業務に挑戦すること、独立開業をすること、あるいは、既存のやり方では解決できない複雑な案件に対して、前例のないアプローチを試みること。これらは全て、ある種の「危険」や「不安」を伴うかもしれません。「食えないかもしれない」という恐怖もあるでしょう。

しかし、岡本氏の言葉を借りれば、その「『危険だと感じる道』にこそ、私たちが本当に情熱を注げる、進むべき道が隠されている」のかもしれません。現状維持という安全地帯に留まるのではなく、たとえ困難が予想されても、自らの成長とお客様への貢献に繋がると信じるならば、勇気を持って一歩踏み出す。その情熱こそが、自分を突き動かす原動力となるはずです。

専門家である前に、一人の「人間」であれ

岡本氏は、専門分野の技術だけを磨くことに疑問を呈し、「人間」としての幅を持つことの重要性を語っています。

絵描きは絵の技術だけ、腕をみがけばいいという一般的な考え方には、ぼくはどうしても納得できなかったのだ。しかしそれは極めて危険な問いだ。芸術ばかりではない。他の部門のあらゆる専門家、さまざまの企業内の社員でもみんなそうだと思うのだが、この道一筋ただ自分の職能だけに精進すれば尊敬もされる、報われもする。それを根本的に疑った り、捨ててしまえば生きてはいけない。(中略)ぼくは今まで一度も職業を持つことが、卑しいなどと言ったことはない。人間が社会で生きていくには、職業を持つことはノーマルなんだから。しかし、そのために、全人間として生きないで、職業だけにとじこめられてしまうと、結局は社会システムの部品になってしまう。それがいけない、つまらないことだ。ぼくの言う三権分立の「人間」=「芸術」が抜けてしまう。現代社会の一番困った、不幸なポイントだ。

税理士は税務・会計のプロです。専門知識やスキルを磨くことは当然重要です。しかし、それだけでは十分ではありません。お客様は生身の人間であり、その事業や人生には様々な背景や想いがあります。法律や数字だけでは割り切れない、人間的な共感力、コミュニケーション能力が、これからの税理士にはますます求められると考えます。

岡本氏の言う「全人間として生きる」とは、税理士という専門性に閉じこもるのではなく、幅広い視野を持ち、お客様の心に寄り添い、共に未来を創造していくパートナーとなることではないでしょうか。AI技術が進化する現代だからこそ、「人間」としての価値が問われていると思います。

失敗を恐れず、挑戦し続けることの尊さ

新しいことに挑戦すれば、失敗はつきものです。しかし、岡本氏は失敗を恐れるな、と力強く語ります。

夢に賭けても成功しないかもしれない。そして、そのとき、ああ、あのとき両親の言うことを聞いておけばよかったと悔やむこともあるかもしれない。でも、失敗したっていいじゃないか。不成功を恐れてはいけない。人間の大部分の人々が成功しないのがふつうなんだ。(中略)しかし、挑戦した上での不成功者と、挑戦を避けたままの不成功者とではまったく天地のへだたりがある。挑戦した不成功者には、再挑戦者としての新しい輝きが約束されるだろうが、挑戦を避けたままでオリてしまったやつには新しい人生などはない。

税理士業務においても、新しい節税策の提案、新規事業のアドバイス、業務効率化に向けたIT化など、様々な挑戦の機会があります。その結果が常に成功するとは限りません。しかし、挑戦した上での失敗と、挑戦を避けたことによる停滞とでは、天と地ほどの差があると岡本氏は言います。

失敗から学び、それを糧として再挑戦する。そのプロセスの中にこそ、成長があり、新たな道が開かれるのではないでしょうか。「うまくいかないときは、素直に悲しむより方法がないじゃないか」と岡本氏は言いますが、その悲しみを乗り越えて再び立ち上がる強さこそが、私たちを輝かせてくれるのかもしれません。

「今、この瞬間」に全力を尽くす

未来への不安や過去への後悔にとらわれず、「今」を全力で生きることの重要性を岡本氏は繰り返し説きます。

「いまはまだ駄目だけれど、いずれ」と絶対に言わないこと。”いずれ”なんていうヤツに限って、現在の自分に責任を持っていないからだ。生きるというのは、瞬間瞬間に情熱をほとばしらせて、現在に充実することだ。過去にこだわったり、未来でごまかすなんて根性では、現在をほんとうに生きることはできない。(中略)人間がいちばん辛い思いをしているのは、”現在”なんだ。やらなければならない、ベストをつくさなければならないのは、現在のこの瞬間にある。

税理士の仕事は、期限のある業務も多く、日々のタスクに追われがちです。しかし、そんな中でも、「いずれ時間ができたら新しいことを学ぼう」「将来のために今は我慢しよう」と先延ばしにしてしまうことはないでしょうか。

岡本氏の言葉は、「今、この瞬間」のお客様との関わり、目の前の業務に情熱を注ぎ、全力を尽くすことの大切さを改めて気づかせてくれます。その積み重ねこそが、充実した未来を創り出すのではと考えます。

まとめ

岡本太郎氏の言葉は、時に過激で、耳の痛いものも多いかもしれません。しかし、その根底には、現状に甘んじることなく、常に自分自身と闘い、新しい道を切り拓いていこうとする強烈なエネルギーと、人間への深い愛情が流れています。

ぼくはさっき「出る釘になってやる」と言った。これは決してぼくだけの問題じゃない。生きがいをもって生きようとするすべての人の運命なのだ。それぞれ、人によって条件はさまざまだろう。ただ、誰でもが本来やれる、やるべきこと。ーたとえみんながイエス、イエスと言っていても、自分がほんとうにノーだと思ったら、ノーと発言することだ。

税理士として、社会のルールや慣習の中で仕事をしています。しかし、その中で思考停止に陥るのではなく、時には「出る釘」になる勇気も必要なのではないでしょうか。お客様にとって、社会にとって、本当に正しいと信じることを貫く。そのためには、自分の中に「毒」、すなわち現状を打破するエネルギーと批判精神、そして何よりも熱い情熱を持つことが不可欠だと思いました。

岡本太郎氏の言葉を胸に、これからも既成概念にとらわれず、常に挑戦し続ける税理士でありたい。そして、お客様一人ひとりの「ほんとうの生き方」をサポートできる存在でありたい。そう強く感じています。