会計データを使って「経営の見える化」を進めるための考え方 〜『考えの育て方 知的生産のデジタルカード法 』倉下忠憲 著を読んで〜
税理士の業務の一つに顧客から依頼された税務申告書の作成があります。税務申告書を作成するためには、顧客の日々の事業活動について会計ルールに沿った帳簿を作成する必要があり、そのため会計ソフトに日々の取引データを入力して税務申告へと進めます。
この際にせっかく手間をかけて会計ソフトに入力したデータを税務申告のためにしか活用しないのは勿体無いものです。
そこで、会計ソフトに入力したデータを日々の経営判断にも活用できるようにするために、会計ソフトに取引データを入力する際の工夫が必要となります。
その工夫とは、たとえば、売上先や仕入先ごとに実績管理できるようにしたり、複数の事業を行っている場合は、各事業ごとの業績が管理できるように区分けするなど、会計ソフトの機能を用いて自分が知りたい経営情報を見える化することができます。
極論からすると税務申告にあたってはこの経営の見える化の工夫をせずとも適正な税務申告が可能ですが、先に述べた通り、自分の工夫次第で日々の経営判断に活用できるものとなります。
経営の見える化は商売をしていく上で重要な情報となるため推進していくべきと考えますが、その一方で、この経営の見える化の工夫は時間と労力を要するものであり、さらには完全が無いものであることに注意が必要です。
経営の見える化をしようとすると、どの範囲をどこまで細かく分析するかの判断が難しく、その気になればどこまでも細分化しこだわることができてしまい、経営の見える化の工夫は終わりが無いものといっても過言ではありません。
しかし、税理士をはじめ経理に携わる者としては、つい理想を求めてしまいます。完全な経営の見える化を追い求めがちです。完全を追い求めてもいつまでたっても完全がないのだから、見える化が出来ずに経営に活用する情報がタイムリーに手に入りません。これでは何のために経営の見える化を目指すのか、本末転倒です。
つまり、会計ソフトへのデータ入力にあたっては、はじめから完全な経営の見える化を追求せず、不完全であることを受け入れて進めていき、その都度ブラッシュアップしていけば良いと考えます。そもそも仮にある時点で完全であると思っても、時間が経てばまた変更すべき事項も出てくるものです。であるならばやはり、常に完全であることに固執することなく、不完全であることを認め完全にむけて一歩一歩進めていくべきと考えます。
デジタルツールはいろいろできるがゆえに、使い手が「完璧さ」を求めがちな側面もある。結果的に、その追求が使い手自身を苦しめてしまう事態が起こる。ルールを増やし、カテゴリを複雑にし、階層を多重に作り上げて、使うことを自分自身でたいへんにしていく。
完全なライブラリを目指すのではなく、混沌を混沌のまま育てていくこと。本書ではこれを《断片的に進める》と呼んでみよう。大きく完全な構造のもので情報を「整理」しきらない姿勢のことだ。この《断片的に進める》を可能にするのが《断片的に書く》ことだ。《断片的に書く》から《断片的に進める》ことができる。両者は対の関係にある。
個々のカードの中身はそれなりに管理される。しかし、その全体に関しては統治しない。制約や制限を設けずに、自由に発展していけるようにする。そんなコンセプトが大切ではないだろうか。