『人が増えても速くならない〜変化を抱擁せよ〜』倉貫義人著 を読んで
目の前の生産性を上げるのか。生産性を上げる仕組みを作るのか
税理士業務の繁忙期として、年末調整や個人の確定申告などの時期が挙げられ、この時期は短期間で多くの仕事をこなしていくことになります。開業から数年が経ち「毎年同じやり方で繁忙期を乗り越えて行くことが最善なのだろうか」と妻と話し合い、目の前の仕事に着手したい気持ちをおさえて、まずは繁忙期のこれまでの反省と対策の話し合いに時間を設けるようにしました。すると「この作業はそもそも必要があるだろうか」「これはお客様が求めているものだろうか」と、これまで取り組んでいた作業の一部が不要であることに気付き、不要な作業を省くことで生産性が上がりました。データの入力を速めたり、申告書の作成を速めるといった目の前の生産性を上げるよりも、不要な作業を省いてから仕事に着手する仕組みを作る方が生産性が上がることを実感しています。
目の前の生産性を上げるのか。それとも、生産性を上げる仕組みを作るのか。 どちらが大事なことでしょうか。 ソフトウェア開発においては、後者です。ソフトウェアは一度作って終わりではないので、生産性を上げる仕組みを作っていくことは、あとになるほど影響を与えます。 よって、生産性を上げる仕組みを作るための時間を用意することは心得ておきたいものです。エンジニアの時間をすべて目の前の仕事の消化に充ててしまうと、生産性はずっと向上しません。
仕組みによる生産性の向上で時間と気持ちに余裕が生まれ、読書によるインプットを増やし、セミナーや租税教室講師などのアウトプットの場を設けることができました。自分の可能性を広げるためにも仕組み作りは必要なものです。
ずっと同じ生産性のままではなく、仕事の生産性を上げていくことで、より多く、より複雑な仕事にも取り組めるようになり、自分の価値も高まり、組織への貢献もできるようになります。そのためには、ただひたすら仕事に取り組めばいいわけではなく、仕事のやり方やプロセスを見直すことが欠かせません。 その取り組みを、私たちの会社では「ふりかえり」と呼んでいます。
受発注の関係と協働の関係
システム開発で目指したい姿は、依頼する側と開発する側の受発注の関係ではなく、事業や活動のミッションを達成するための〝協働〟の関係です。
顧問先様と税理士との間において、『ミッションを達成するための〝協働〟の関係』でありたいと考えます。
税理士に依頼すればあとはお任せで税務申告が完了すると考える方がなかにはいらっしゃいますが、適正な税務申告をするには顧問先様自身の積極的な情報開示と税理士とのコミュニケーションが欠かせません。顧問先様と税理士は受発注の関係ではなく、協働の関係を築くことが適正な税務申告と顧問先様の発展につながるのではないでしょうか。
事業側と開発側が受発注の関係ではなく、共通のゴールを目指す同じチームとして協働の関係を築くためには、システムを作ることだけを目的とした体制やマネジメントをしないことです。あくまで事業や活動があり、その成長や成果のためにシステムを作るとするのです。
変化を抱擁する思考
変化に対して管理やコントロールをしようとするのではなく、あるがまま受け入れつつ柔軟につきあっていくこと
会計ソフト業界の変化を受け、クラウド会計ソフトを導入することになりましたが、既存の会計ソフトでは出来たことが、クラウド会計ソフトでは「出来ないこと」に目がいき粗探しをしていた時期がありました。これは変化に対して柔軟につきあうことなく管理やコントロールをしようとしていたことのあらわれだと思います。
ソフトウェアのみならず、事業や組織といった物理的に形のないものは、変化し続けます。新しい技術は次々と生まれて、時代や環境は変化していきます。そうした外的な変化に追随できないと衰退し滅びますし、改善や新しいものを生み出していく内的な変化をすることでこそ成長し続けることができます。 どうやっても変化していくならば、変化をないものとせず、変化を前提におくこと。そのために、扱える範囲に小さくしたり、なるべくシンプルな状態を保ったり、人海戦術に頼ったりしないことで、変化に前向きにつきあっていけます。それが「変化を抱擁する思考」です。
会計を取り巻くシステムは変化し続け、税務手続きにおける行政のシステムも変化し続けています。納税者や税理士はこの変化し続けるシステムを学び続けなければならず、そのためには時間の確保が必要です。変化を追うことは億劫なこと。しかし変化を追うことは成長すること。変化に前向きにつきあう『変化を抱擁する思考』を待ち、成長し続けていきたい。