税理士が「お客様と会って話すこと」の意義 〜『ChatGPT vs 未来のない仕事をする人たち』堀江貴文 著を読んで〜

税理士として業務を行う上で、業務の効率化は必要なものであると感じ効率化を進めています。しかし、効率化を進めれば進めるほど、その一方で効率化すべきではないものがあることを認識するようになります。

その効率化すべきではないものとは、「お客様と会って話すこと」です。これはチャットやメール、web会議などオンラインでのやり取りではなく直接対面で話すことです。

会って話すためには移動時間がかかりますし、交通費もかかります。一方で、チャットやメール、web会議を利用するのであれば、移動時間がかからず、交通費もかかりません。業務の効率化の観点からすると、「お客様と会って話すこと」は非効率なものであり、好ましいものではないという位置付けになります。

ではなぜ、「お客様と会って話すこと」にこだわるのでしょうか。

それは、直接会って話すと五感をフル活用してお客様の考えを感じ取ることができるからです。また、そのことは一方で、自分の考えもお客様に伝わりやすいということがいえます。

お客様と税理士お互いの考えを理解したり、考えを擦り合わせたり、共感するには、会って場を共有し話すことが最適解であると考えます。チャットやメール、web会議などのオンラインではなくアナログではありますが、実際に会って話すことでしか得られないメリットがそこにはあります。

「お客様と会って話すこと」でお互いの理解が深まりますが、ではなぜそこまでして理解を深める必要があるのでしょうか。それは、税理士業務が、数字やテキストのやりとりだけでは完結せず、お客様の考えや状況を理解して初めて真に成り立つものだからです。

税理士業務は主にお客様の税務に関するサポートをします。税金に関する業務であり、数字を扱う業務であるから、チャットやメール、web会議などなどデジタルな対応で成り立つものと考えがちです。しかし、税務申告書は、一見すると数字を列挙したものですが、実はその数字の裏にはお客様の日々の行動や考えが数字として表現されているものです。

これらを表現する税務申告書を作成するには、作成する時点になって初めて関与するものでは難しいものです。作成する前の段階から、税理士はお客様に関与して税務に関するサポートや、会社経営における相談事にのるなどを通じてお客様のサポートを行い、その日々の積み重ねの結果として税務申告書が出来上がります。やはりそこに至るまでにはお互いの理解が必要であり、そのためには「お客様と会って話すこと」が必要な手段となります。

AIにも税金に関する相談ができるし、今後は税務の申告書を作成してもらうこともできるようになるでしょう。しかしそれでも、人である税理士が「お客様と会って話すこと」でお互いの理解を深めることが重要ではないかと考えます。

なぜならば、AIはお客様の行動を学習しその傾向から提案をすることはできますが、それはあくまでも表面上の行動から読み取ったものであり、お客様の真の考えを表すものではない可能性があるからです。また、お客様自身でも自分のことに気づけていない部分は多々あると思います。お客様の真意はどこにあるのか、「お客様と会って話すこと」でお客様自身も気づけていない考えを明らかにする可能性が高まります。

AIはお客様の傾向から判断してお客様が好みそうなものを提案することに長けていますが、お客様の考えに無いようなことを提案しません。一方で人間である税理士であれば、お客様とは違った価値観をもった自分の経験から必ずしもお客様の傾向に沿った提案だけではなく、違った価値観の提案をすることができます。自分とは違う考えに触れることで、お客様自身の新たな気づきにつながり、状況が改善することも期待できます。

AIはとても便利なものであり、知識量や計算能力などでは、人である税理士には太刀打ちできないものです。これからの時代、お客様はAIを活用すべきではありますが、一方で、人にしかできないこと、つまり予定調和とは異なる化学変化をもたらすような人のサポートも必要であり、それが税理士という存在意義になるのではないでしょうか。

AIは人にはなれません。「自分の生き方や人間味」をさらけ出してお客様に向き合っていくことがこれからの税理士に求められるものであり、AIにはできない唯一のものです。

AIだけ、人だけ、ではなく、AIと人の両者からサポートを受け事業を発展させていく時代なのかもしれません。

人間にしかできない仕事として何が挙げられるでしょうか。AIにとって一番面倒くさい仕事は、人間です。人の気持ちをよくする、人の心を動かす、孤独を癒す、人と人の間に入る、人が喜ぶイベントを企画する、関係者が納得するような資料を作るといった、人の面倒くささの中に成り立っている仕事はいくらでもあります。具体的には、人の心を動かすコーチングやリーダーシップが求められる仕事、高額なサービス業、インフルエンサーなどは今後も必要だと思います。これらに共通するのは「人間性」が強みになることです。実際、今でも人の気持ちを汲んでマネジメントできる人材は、どの会社にも足りていません。飲食店でも人手不足が叫ばれていますが、とりわけお客様を喜ばせるような接客ができる人材は深刻に枯渇しているようです。このままだと、将来は高級店でのみ人間が接客をし、安いお店は完全にタッチパネル・機械が接客を担う、というように飲食業界のあり方が二分されていくはずです。インフルエンサーは人の心を動かすという意味でなくならないと思いますが、 インフルエンサーの中でも、情報をまとめて提供しているだけの人は厳しくなるでしょう。コンテンツにオリジナル性が乏しいため、機械で自動的に作ることもできます。今後は、自分の生き方や人間味を提供していく人のほうが強くなるのではないでしょうか。