税理士の想いは「ありがた迷惑」?~「利他」の落とし穴と真の貢献~
税理士として、お客様に喜んでいただきたい、お役に立ちたいという気持ちで日々業務に励んでいます。しかし、税務知識やアドバイスが必ずしもお客様にとって「利他的」な行為になるとは限らない、という現実に直面したことはありませんか?
中島岳志氏の著書『思いがけず利他』を参考に、税理士業務における「利他」の難しさと、真の貢献について考えてみたいと思います。
税務アドバイスは「ありがた迷惑」?
「お客様のためになることをしたい」という善意で提供した税務アドバイスが、実はお客様にとって「ありがた迷惑」になってしまうことがあります。
中島氏は著書の中で、下記のように述べています。
いくら他者のことを思って行ったことでも、その受け手にとって「ありがたくないこと」だったり、「迷惑なこと」だったりすることは、十分ありえます。
税理士が「正しい」と考える節税対策や申告方法が、お客様の価値観や事業計画に合致しない場合、それは押し付けとなり、かえって迷惑になってしまう可能性があります。
「節税」だけが全てではない
税理士は「節税」を重視する立場になりがちですが、お客様にとって「節税」が最優先事項とは限りません。事業拡大のために多少の節税を犠牲にすることを望むお客様もいれば、税務リスクを最小限に抑えることを重視するお客様もいます。
税理士の価値観を押し付けるのではなく、お客様の状況や価値観を深く理解し、それぞれのニーズに合ったサービスを提供することが重要です。
「利他」のタイムラグ
中島氏は、「利他」が起動するのは「与えるとき」ではなく「受け取るとき」だと述べています。税理士のアドバイスがお客様にとって「利他的」なものになるまでには、タイムラグがあるということです。
お客様がアドバイスの価値を理解し、感謝の言葉を述べてくれるのは、時間が経ってからかもしれません。
受け手が相手の行為を「利他」として認識するのは、その言葉のありがたさに気づいたときであり、発信と受信の間には長いタイムラグがあります。ここに「利他」をめぐる重要なポイントがあります。「利他」は、受け取られたときに発動する。この原理は、次のように言い換えることができます。私たちは他者の行為や言葉を受け取ることで、相手を利他の主体に押し上げることができる。私たちは、与えることによって利他を生み出すのではなく、受け取ることで利他を生み出します。そして、利他となる種は、すでに過去に発信されています。私たちは、そのことに気づいていません。しかし、何かをきっかけに「あのときの一言」「あのときの行為」の利他性に気づくことがあります。私たちは、ここで発信されていたものを受信します。そのときこそ、利他が起動する瞬間です。発信と受信の間には、時間的な隔たりが存在します。
「ありがた迷惑」にならないために
税理士の考えを押し付けるのではなく、複数の選択肢を提示し、お客様が主体的に選択できるようサポートしていく必要があります。また、お客様の反応や意見を尊重し、必要に応じて柔軟に対応していくことも重要です。
真の「利他」を目指して
税理士の仕事は、お客様の事業を支え、成長を促す「利他的」な行為であるはずです。しかし、お客様の状況や価値観を無視した押し付けは、「ありがた迷惑」になりかねません。
本書の考え方を参考に、お客様との信頼関係を築き、真の「利他」を実現する税理士を目指していきたい。