世阿弥の言葉は税理士の心構え 〜『風姿花伝』から得る3つの学び〜
こんにちは、栃木の税理士伊沢です。
先日読んだ『「100分de名著」ブックス 世阿弥 風姿花伝』という本の中に、心に響く言葉がいくつもありました。一見、能という伝統芸能とは無関係に思えるかもしれませんが、実は税理士の仕事のあり方や、日々の努力について深く考えさせられる内容でした。
才能は「つくられる」もの
世阿弥は、天性の才能ももちろんあると認めつつも、努力によって才能はつくられると説いています。著書にはこう書かれています。
『風姿花伝』には、能役者としての稽古の積み方や年の重ね方が、一つのシステムとして極めて具体的に書かれています。その背景に私は、「才能はありのままに任せればよいのではない。才能はつくられるものだ」という世阿弥の念を見ます。
これは、税理士の仕事にも通じる部分です。もちろん、人には向き不向きがあると思いますが、それ以上に日々の地道な勉強や経験の積み重ねが、専門家としての「才能」を育むのではないでしょうか。新しい税制の知識をインプットしたり、お客様の悩みに寄り添うコミュニケーション能力を磨いたり。これらはすべて、自分自身を成長させるための「稽古」です。
また、著書では画家の逸話も紹介されています。手を怪我して絵が描けないと師匠に話したところ、「君は手で絵を描くのか」と言われたという話です。
この言葉は、「技術」や「手」だけで仕事をするのではない、という意味だと考えられます。税理士も、単に数字を計算したり申告書を作成したりするだけではありません。お客様の人生や事業に寄り添い、最善の道をお客様と共に考えることが、税理士の本当の仕事だと思います。
常に「珍しきが花」
世阿弥は、観客を飽きさせないために常に新しいもの、珍しいものをつくり出すことが大切だと説いています。
「花」と「おもしろい」と「珍しさ」は同じことなのだ。これは、人気に左右される芸能の世界で勝つために、世阿弥が至った核心です。常に新しいもの、珍しいものをつくり出していくことが大切だということです。
この考えは、税理士がお客様に提供するサービスにも当てはまります。税理士は、毎年同じ税務申告をただ繰り返すだけではありません。お客様の事業の成長や変化に合わせて、常に新しい視点や提案をすることが重要です。
たとえば、ITツールを活用した業務効率化の提案や、事業承継を見据えた税務シミュレーションなど、お客様の未来を見据えた新しいサービスを創造し続けることが、「珍しさ」となり、お客様に価値を感じていただけると思います。同じ税務申告書作成でも、「今年は違うな」と思っていただけるような付加価値を提供をしていくこと。これこそが、世阿弥が説く「イノベーション」だと感じます。
住する所なきを、まづ花と知るべし
世阿弥の言葉で、次の言葉にもハッとさせられました。
「住する所なきを、まづ花と知るべし」。この言葉にとりわけハッとさせられるのは、仕事や人生でそれなりの成功を収めた大人たちではないでしょうか。
これは、一度うまくいった成功体験に安住してはいけない、という意味です。成功は、次の成長の妨げになる可能性があるという、厳しい戒めでもあります。
私は税理士として開業してから12年目となり、長年仕事をしていると、どうしても「これで十分」と思ってしまいがちです。しかし、世の中は常に変化しています。税法改正はもちろん、DXの進展、お客様のニーズの多様化など、学びを止めればあっという間に時代に取り残されてしまいます。
常に新しい知識を習得し、新しいサービスを模索し、現状に満足しないこと。これこそが、私たち税理士がプロフェッショナルとして生き残っていくための心構えだと、世阿弥の言葉から改めて感じました。
終わりに
『風姿花伝』は、能楽師の心得を説いた書物ですが、その本質は現代を生きる私たちにも多くの示唆を与えてくれます。
特に、「才能はつくるもの」「常に新しい価値を創造する」「成功に安住しない」という3つの教えは、税理士として、また一人の人間として、常に心に留めておきたい大切な考え方です。
私も、これらの教えを胸に、お客様にとって常に新しい「花」を咲かせられるよう、日々精進していきたいと思います。