『積ん読の本』から学ぶ、税理士のための情報収集術

税理士業務は、常に最新の税法、判例などを把握することが求められます。変化の激しい現代において、膨大な情報を効率的に収集し、業務に活用していくことは、税理士にとって重要な課題です。

石井千湖氏の著書『積ん読の本』は、従来の私の読書観を覆す内容となっています。本書から得られる考え方を税理士業務における情報収集に適用し、その効率化と質の向上を図ることについて考えたいと思います。

積ん読の効用(情報へのアクセス手段としての書籍)

『積ん読の本』では、「積ん読」という行為を、単なる未読本の積み重ねではなく、「知識のインデックス」として捉えています。

本は自分の関心事が物の形をとった、知識のインデックスみたいなものなので、必要になったときに読めばいい

この考え方は、情報過多の現代において、税理士業務にも有効なものではないでしょうか。

税法改正、最新の判例情報など、税理士が扱う情報は多岐に渡ります。これらの情報をすべて詳細に理解し、記憶しておくことは現実的に困難です。

重要なのは、「必要な時に、必要な情報にアクセスできる」状態にすることです。書籍や資料を「積ん読」状態、つまり、すぐに参照できる状態にしておくことで、情報へのアクセス手段として活用することができます。

紙媒体、電子媒体を問わず、情報を適切に整理・分類し、検索が可能な状態にすることを意識し続けることで、自分だけの「知識のインデックス」を構築することが可能となります。

マルジナリア(能動的な学習による知識の定着)

『積ん読の本』では、「マルジナリア」という言葉が紹介されています。これは、書籍の余白に書き込みをすることを意味します。

余白の書き込みのことを「マルジナリア」という。山本さんにとって、本はマルジナリアを用いて育てるものだ。

能動的に自ら意識して書き込みを行うことは、単に情報を受け取るだけでなく、自ら情報を整理し加工することで、理解を深め、記憶に定着させる効果があります。

税法の条文解釈、お客様に有用な情報、業務上のミス防止のためのチェックすべきポイントなど、書籍や資料への書き込みは、学習効果を高める有効な手段となります。

デジタル化が進みパソコンやタブレットを日常で用いる現代においても、紙媒体の書籍や資料は、書き込みによって自分だけのオリジナル教材となります。積極的に「マルジナリア」を活用することで知識を深めていきたい。

パラグラフリーディング(効率的な情報抽出)

限られた時間の中で、効率的に情報収集を行うことは、税理士業務を行う上で重要な課題です。『積ん読の本』で紹介されている「パラグラフリーディング」は、この課題に対する有効な解決策となり得ます。

あるとき、友人で音楽家の小島敬太くんと話をしたんですね。いろんな本のパラグラフを抜き出して、とにかくそれを熟読するだけのパラグラフリーディングのイベントを開いたら楽しそうだなって。

興味のあるパラグラフ、あるいは必要とする情報を含むパラグラフを重点的に読むことで、書籍全体の要点を効率的に把握することができます。

これまでの「書籍は最初から最後まで読まなければならない」という考え方を辞めることが重要です。「パラグラフリーディング」は、最新の税制改正や最新の判例情報、お客様に有用な情報などを短時間で要点を掴みたい場合に有効な読書法と言えます。

自己成長を促す「未読」の価値

『積ん読の本』の中では、「未読」の状態であること自体にも価値があると指摘している部分があります。

読んだ本のことは、ある程度わかります。読んだ本しか家にないということは、自分がわかっている世界しかないということですよね。そんなの、つまらないじゃないですか。読んでない本があると、世界は外に広がっている。未知の世界に自分が開かれているんです

未知の分野へ挑戦することは、自分の成長を促す原動力となり得ます。税理士業務においても、常に新しい情報に触れ、未知の分野に挑戦することで、視野を広げ、より質の高いサービス提供に繋げることが可能となると考えます。

動的平衡(変化への対応と継続的な成長)

『積ん読の本』では、「動的平衡」という概念が重要視されています。

うちの本棚も動的平衡を保っていると思います。自分の本だけじゃなくて、妻の本や亡くなった母の本もいつのまにかまぎれ込んでいる。日々新しい本が入ってきて、キャパオーバーになったら古い本が出ていくわけです

これは、生物が常に変化し続けることで、生命を維持しているという考え方です。情報もまた、常に更新され続けています。税法の改正、新しい判例、経済状況の変化など、税理士を取り巻く環境は絶えず変化しています。

この変化に対応し、成長していくためには、税理士である自分が持つ情報もまた「動的平衡」の状態を保つ必要があります。常に新しい情報を取り入れ、古い情報を整理し、知識や技術をアップデートしていくことが重要です。

まとめ

『積ん読の本』は、情報収集の方法論や自己成長の在り方について、新たな視点を提供してくれるものでした。この視点を参考に、税理士業務における情報収集を最適化し、変化の激しい現代においても、質の高いサービスを提供できる税理士を目指していきたいと思います。