税理士が陥りがちな「言葉」と「顔」の罠。その脱出方法とは?

日々、税理士業務に追われる中で、ふと「自分はこれで良いのだろうか?」と立ち止まることがあります。目の前の数字や税法と格闘する中で、顧問先であるお客様の真のニーズを見失っていないか、自分の仕事に本当に意味を見出せているのか、不安に思うこともあります。

そんな時に、新たな視点を与えてくれるのが、音楽家の高橋悠治さんと坂本龍一さんの対談集『長電話』です。一見、税理士業務とは全く関係のないように思える本です。しかし、ページをめくるごとに、税理士自身の仕事、そして人生に対する深い問いが投げかけられています。

言葉は「自己規制装置」なのか

坂本さんは言います。

あらゆる言葉はさ、知っちゃったらね、自己規制装置になっちゃうんじゃない。

税理士は、税法や規則、会計基準といった「言葉」の世界に生きています。これらの言葉は、税理士の行動を規範し、社会の秩序を守る上で不可欠なものです。しかし、同時に、税理士を枠にはめ、自由な発想を阻害する「自己規制装置」となる危険性も孕んでいるのではないでしょうか。

言葉の奥にある「真実」を捉える

高橋さんもまた、言葉の持つ力、そしてその危うさについてこう語っています。

言葉にしてみると嘘になるっていうことがかなりあるわけ、ね。

決算書や税務申告書、会計帳簿など、これらは、顧問先企業の活動を「言葉」で表現したものです。しかし、数字や言葉だけで、その企業の本当の姿を捉えることができるでしょうか?そこには、経営者の情熱や従業員の努力、そして未来への希望など、数字では表せない「物語」が隠されていると思います。

税理士として顧問先と向き合う時、数字や言葉の奥にある「真実」を見抜く必要があります。そのためには、単に数字を処理するだけでなく、顧問先の事業への想いや、抱えている課題、そして将来の展望に耳を傾けることが重要です

「顔」で判断する危険性

『長電話』では、高橋さんや坂本さん自身が「顔で選ぶ」と発言している箇所が複数見られます。

ウン。やっぱりもう中身とか何とかよりね、顔で決めるのよ、良し悪しは。

これは人間である以上、完全に客観的な判断ができず、どうしても第一印象や外見に影響されてしまうことを著者自身が率直に認めていると言えます。

しかし、税理士はお客様を公平に評価し、その真のニーズに応えるためには、外見や第一印象にとらわれず、その人の内面を見ることが重要であると考えます。つまり、『長電話』の「顔で選ぶ」という主張に反し、税理士はお客様と接する際に、規模や業種、見た目の印象などで判断してはいけないという戒めとして捉えることができます。どんなに小さな企業でも、熱い想いを抱いた経営者がいらっしゃいます。華やかな業界だけでなく、地域社会を支える一見地味な仕事にも、大きな価値があると思います。

税理士として、お客様の「顔」ではなく、「中身」を見る。そのために、税理士は、常に謙虚な姿勢で、お客様の言葉に耳を傾け、その事業の本質を見極める努力を続けなければならないと考えます。

仕事を楽しむ「遊び心」

坂本さんの次の言葉は、税理士の仕事に対する新たな視点を提供してくれます。

使命感は持ちたくないねえ、やっぱり。

もちろん、税理士は社会的に重要な役割を担っており、責任感や使命感を持つことは大切です。しかし、それだけが全てではありません。「遊び」心を持って仕事に取り組むことで、新たな発想が生まれ、顧問先との信頼関係を深めることができるのではないでしょうか。

税務を通じて顧問先の事業成長に貢献できた時の達成感。税理士業務における「楽しさ」を見出すことで、より創造的な仕事ができるのではないかと思います。

「長電話」のように向き合う

本書では著者の高橋さんと坂本さんが対話を通じて互いを深く理解していく様子が伺えます。本書のタイトルにもなっている「長電話」のように、顧問先とじっくりと時間をかけて対話することの重要性を感じました。単なる数字のやり取りだけでなく、顧問先の想いや悩みを共有することで、深い信頼関係を築くことができるのではないでしょうか。

税理士は、単なる「税金の専門家」ではなく、顧問先のビジネスパートナーとして、共に歩む存在であるべきであることを改めて認識しました。