税理士業務における「観光客」的視点の重要性

税理士と言えば、「税務知識を駆使して、税金の計算をする」「数字とにらめっこして決算書を作成する」「税務調査に対応する」このようなイメージを持たれる方も多いのではないでしょうか。

どれも重要な仕事ですが、ちょっと堅苦しいイメージです。顧問先と深く関わり、その内部事情に精通することで、最適な税務アドバイスを提供する、いわば「村人」的な存在。それが従来の税理士像かもしれません。

しかし、インターネットが普及し、情報が溢れかえる現代において、税理士に求められる役割は変化していると感じます。顧問先も、単なる税務申告だけでなく、経営戦略や事業拡大、事業承継など、多岐にわたる相談をいただくようになってきました。

そこで重要になるのが、東浩紀氏の著書『弱いつながり 検索ワードを探す旅』で提唱されている「観光客」的な視点です。

 

「村人」型税理士から「観光客」型税理士へ

著者によれば、人は「村人」タイプと「旅人」タイプに分けられるといいます。

ひとつの場所にとどまって、いまある人間関係を大切にして、コミュニティを深めて成功しろというタイプのものと、ひとつの場所にとどまらず、どんどん環境を切り換えて、広い世界を見て成功しろというタイプのもの。村人タイプと旅人タイプです。

そして、著者が提案するのは、このどちらでもない「第三の観光客タイプの生き方」です。

村人であることを忘れずに、自分の世界を拡げるノイズとして旅を利用すること。旅に過剰な期待をせず(自分探しはしない!)、自分の検索ワードを拡げる経験として、クールに付き合うこと。

税理士業務においても、この「観光客」的視点が重要です。顧問先という「村」にどっぷり浸かるのではなく、時には「観光客」のように外の世界に目を向けてみる必要があります。

著者は、「ネットは階級を固定する道具」と述べています。これは、インターネットが、個人の所属するコミュニティを強化し、外部との交流を阻害する側面を持つことを指摘したものです。税理士業務においても、顧問先との関係に固執するあまり、新たな情報や知識の獲得を怠ってしまう可能性は否定できません。

 

「観光客」的視点の導入

税理士はどのように「村人」の殻を破るべきなのでしょうか。著者は、「グーグルが予測できない言葉で検索すること」を提唱しています。そのためには、「場所を変える。それだけです。」と述べ、物理的な移動、すなわち「旅」の重要性を強調しています。

税理士業務においても、この「旅」の概念は極めて重要です。顧問先という「村」から飛び出し、「観光客」のように様々な場所に赴き、多様な人々や情報に触れることで、新たな発想や知識を獲得することができると思います。

「観光客」的視点の具体例としては、例えば、異業種交流会に参加することです。税理士事務所内に籠るのではなく、様々な業界の経営者と交流し、異分野の知識や情報に触れることで、新たな発想が生まれます。著者も述べているように、「パーティでたまたま知り合ったひと」との出会いは、思いもよらないチャンスをもたらす可能性を秘めています。

次に、最新技術を学ぶことです。 AI、ブロックチェーン、FinTechなど これらの技術は、税理士業務を大きく変える可能性を秘めていると考えます。

税理士は税務と会計の知識さえあれば良いといった考えを払拭し、これらの最新技術を積極的に学び、顧問先に新たな価値を提供していきたい。

 

「観光客」的視点がもたらす効果

「観光客」的視点を持つことで、以下のようなメリットがあると考えます。

まずは新たな発想が得られることです。 顧問先の枠にとらわれず、自由な発想で顧問先に税務アドバイスができるようになるのではないでしょうか。

次に、問題解決能力の向上です。多様な視点から問題を分析することで、より効果的な解決策を提案できることが期待できます。

また、顧問先との信頼関係構築にもつながります。 新たな情報や視点を提供する税理士となることで、顧問先との信頼関係を深められると考えます。

 

「不毛な対立」の回避

現代社会は、誰もが自分の正当性を主張し、対立が激化しやすい状況にあると言われます。顧問先内でも、経営者と従業員、顧問先と金融機関、顧問先と行政など、様々な利害関係者が存在し、対立が起こりえます。

税理士は、このような対立に巻き込まれるのではなく、「観光客」的な視点で中立的な立場を保ち、冷静に状況を判断することが重要です。それぞれの立場や主張を理解し、公平な立場で解決策を提案することで、「不毛な対立」を避け、顧問先をより良い方向へと導くことができるのではないでしょうか。

 

まとめ

税理士は、単なる税務の専門家ではありません。顧問先の成長をサポートし、社会の発展に貢献する重要な役割を担っています。「観光客」的視点を取り入れることで、税理士としての可能性をさらに広げ、顧問先、そして社会全体にとって、より良い未来を手助けできる存在になれればと思います。