「忙しい」が口癖になっていないか?税理士が見つめ直す、本当に価値ある仕事とは?

こんにちは、栃木の税理士伊沢です。

日々、お客様と接する中で、「忙しい」という言葉を耳にする機会は少なくありません。税理士である私自身も、締め切りに追われ、情報収集に時間を費やし、常に「忙しさ」と隣り合わせで仕事をしていると感じることがあります。

しかし、先日読んだデニス・ノルマークとアナス・フォウ・イェンスン共著の『忙しいのに退化する人たち やってはいけない働き方』には、下記のような現代社会の「忙しさ」に対する根本的な問いが投げかけられており、深く考えさせられました。

日本の労働時間の大部分は、真の価値をあまり生み出さない仕事に費やされているのにちがいないのだ。

この一文は、税理士業務においても非常に重要な視点を与えてくれると思います。

私たちは日々の業務の中で、本当に価値を生み出す仕事に時間を費やしているでしょうか?それとも、著者が言うところの「偽仕事」に忙殺されてしまっていないでしょうか?

「偽仕事」とは何か?税理士業務における「無意味な忙しさ」を考える

著書では、「偽仕事」について以下のように定義しています。

たいして重要ではないが、自分では仕事だと思っていることをしていたり、少なくとも賃金をもらって仕事に似た何かをしたりしている人はたくさんいる。必ずしも有益だとは思わないまま、この種の仕事に忙殺されている人さえいる。

税理士の仕事は、専門性が高く、お客様の事業や生活に深く関わるため、「無意味な仕事」など存在しないと思われがちです。しかし、本当にそうでしょうか?

たとえば、最新の税制改正を追いかけることは重要ですが、その情報をただ「知っている」だけで終わっていないでしょうか?お客様の現状に照らし合わせ、具体的に規定を適応する場合や、節税策、経営改善策として提案できていなければ、それは単なる情報収集という「偽仕事」に終わってしまうかもしれません。

また、著書にはこんな記述もあります。

仕事は、それをやり遂げるために与えられた時間を埋めるまで拡大する

これはパーキンソンの法則として知られる考え方ですが、税理士業務でも無関係ではありません。

例えば、特定の資料作成に3時間の枠が与えられた場合、たとえ1時間で本質的な作業が終わっていても、残り2時間をかけて資料を「もっと良くする」ことに費やしてしまいがちです。しかし、その「もっと良くする」作業が、お客様にとって本当に価値を生み出しているのか、常に自問自答する必要があります。

「時間」ではなく「価値」に焦点を当てる

私たちは往々にして、費やした時間で仕事の価値を測りがちです。

仕事にかける時間と生産性は比例するという考えだ。これらの合理性は、どれも真実にもとどいているとはかぎらない。それどころか、おそらく完全にまちがっている。余分な時間はすべて、他人の邪魔をしたり、さらに費用のかかる偽プロジェクトを立ち上げたりするのに費やされているからだ。

この指摘は、私たち税理士が陥りがちな落とし穴を示唆しています。「これだけ時間をかけたのだから、良いものができたはずだ」と考えがちですが、お客様にとって本当に必要なのは「時間」ではなく「成果」であり「価値」です。

お客様が知りたいのは、どれだけの時間をかけて試算表や決算書、税務申告書を作成したかではなく、それらから会社の経営状況を正確に把握し、未来に向けた戦略を立てられるかどうかです。税理士が提供すべきは、作業時間ではなく、お客様の事業を成長させるための的確なアドバイスとサポートなのだと考えます。

税理士が「偽仕事」から脱却し、真の価値を提供する姿勢とは

では、「偽仕事」から脱却し、お客様に価値を提供するためにはどうすれば良いのでしょうか。著書には、そのヒントがあります。

まず、税理士自身が「忙しい」という言葉を安易に使わないこと。そして、無駄な打ち合わせや非効率な業務を見直し、本当に必要な仕事に集中できる環境を整えることです。

著書にある、会議時間の短縮の例は示唆に富んでいます。

会議はどうして1時間なんだってみんなに尋ねたら、理にかなった説明は返ってきませんでした。Outlookではデフォルトでそうなっている、というだけです。会議のために1時間取っていたら、議題をすべて検討し終わっていても、17分で会議を終えようとは誰も言いません。

私も、打ち合わせの効率化を常に意識するよう努めています。お客様との時間をより有意義にするため、事前の準備を徹底し、本質的な議論に集中することで、短時間でも濃密な時間を過ごせるようにしていきたい。そして何よりも大切なのは、「何がお客様にとっての真の価値か」を常に問い続ける姿勢だと思います。

時間で測ったり時間について語ったりしないこと。偽仕事によって、時間は最も供給不足の商品になった。かけた時間を重視するのはやめよう。そうした考え方は工業時代の名残だ。

お客様の困り事を解決し、事業の発展に貢献すること。それが、税理士の提供すべき「本物の仕事」だと思います。

表面的な作業量ではなく、どれだけお客様の課題解決に貢献できたか、どれだけ未来につながる提案ができたか。そこに焦点を当てることで、税理士の仕事はより一層、お客様にとってかけがえのないものになると信じています。

まとめ

『忙しいのに退化する人たち』は、現代社会の働き方に一石を投じる一冊だと思います。私も、無意識のうちに「偽仕事」に時間を費やしていないか、常に内省し、改善していく必要があることを痛感しました。

お客様の大切な時間と経営資源を預かる者として、これからも「量」ではなく「質」、「時間」ではなく「価値」を追求し、お客様の事業と人生が豊かになるよう、真の価値を提供する税理士であり続けたいと考えます。