「マニャーナの法則」で税理士業務を変える~「受け身の仕事」から「自主的な仕事」で価値提供へ~
「マニャーナの法則」の根底にあるのは「明日まで待てないほど、緊急な仕事はない」という考え方です。ポジティブに表現すれば「1日に発生する仕事を集めて、必ず次の日にやる」と言い換えられます。つまり、常に仕事に1日分の「バッファー・ゾーン」を設ける考え方
「明日できることは今日しない」というマニャーナの法則。一見、怠惰な考え方のように思えますが、この法則を応用することで、税理士業務を効率化し、より質の高いサービスを提供できるようになるのではと思い検討してみました。
税理士業務ではお客様からお仕事のご依頼をいただき、試算表の作成や税務申告書の作成提出、税務相談などをしています。税務申告書の提出をはじめこれらの業務は期限内に間違いのないように進めることを求められており、それに応えるために日々取り組んでいます。
これら税理士業務は就業時間をフルに使ってようやく完了できるものなので、ご依頼いただいた業務以外にプラスαのことをする時間的な余裕はありません。こうして忙しなく毎日が過ぎていくことになるのですが、税理士としてこのように過ごしていくだけで良いのでしょうか。
お客様からご依頼いただいた仕事は、お客様の要望をもとに生じた仕事であるので、依頼を受ける税理士の立場からすれば、いわば「受け身の仕事」といえます。一方で、お客様から直接求められたわけではないが税理士が自ら進んで取り組む仕事があってもいいのではないでしょうか。つまり「受け身の仕事」だけではなく、税理士自ら「自主的に取り組む仕事」があってもいいのではないかと考えます。
お客様はご自身が依頼した業務に対して税理士に対価をお支払いいただいているので、「受け身の仕事」は税理士が業務を通じて対価をいただき生活を成り立たせる上で何よりもなくてはならないものです。この「受け身の仕事」を真摯に、かつ、確実にこなしていけば、お客様からの信頼を得て税理士としての商売は成り立つので、いかに「受け身の仕事」をしていくのかが商売としての成功がかかっています。
しかし、ここで考えたいのが、先に述べたように「受け身の仕事」だけで満足して良いのだろうかということです。
「受け身の仕事」はその言葉通り税理士にとって受け身の要素が強く自分の意志が反映しづらいものです。外的要因に翻弄されながら時間を費やしているといえます。
「受け身の仕事」に翻弄され目が回るような日々を送っていないだろうか。場当たり的に仕事をしていないだろうか。単に目の前に与えられた仕事をこなすだけの機械になっていないだろうか。これが税理士業なのであろうか。
毎日、時間に追われていないだろうか。 私は、税理士としてお客様からご依頼いただいた「受け身の仕事」に追われ、自分の専門性を高めるための時間を確保できていないことに悩んでいました。周りに翻弄されるだけでなく、税理士としてのプライドと自らの意志を持って仕事に取り組む。つまり「自主的に取り組む仕事」にも取り組んでいきたい。
「自主的に取り組む仕事」としては、例えば、税務に関する知識を習得しその知識をお客様のために活用できないかを検討すること、そしてその検討した結果をお客様へ提案することが挙げられます。これらはいずれもお客様から直接ご依頼を受ける仕事ではなく自主的に取り組む仕事です。現在そして未来に向けてお客様と自分との税理士業務を考えていく上で取り組むべき仕事であると考えます。
お客様からご依頼があってから動くのではなく、自らの判断で良いと考えることにチャレンジしていきたい。そのチャレンジの末にお客様に対してこれまでの「受け身の仕事」からは得られないプラスαの価値提供ができるようになるかもしれない。このような模索していくことが必要ではないだろうか。
「自主的に取り組む仕事」をするためには、自らに向き合い考える時間、お客様のことを考える時間が必要です。つまりこれまでのように「受け身の仕事」で一日が終わってはならず、時間の確保が必要になります。
ではどうしたら時間が確保できるのでしょうか。これまで通りのやり方では、新たな時間の創出は不可能です。そこで、本書にある「マニャーナの法則」が解決策になるのではと期待します。「マニャーナの法則」を使用し、バッファゾーンを作ることで「受け身の仕事」の場当たり的な対応を防ぎます。そのことで時間を創出し、「自主的に取り組む仕事」に取り組みます。
例えばどのように「マニャーナの法則」を活用するのでしょうか。
これまでお客様からのチャットやメールが届くと、すぐにその内容を確認し回答することを心がけていました。これはその方がお客様にとってメリットになると考えてのことです。
しかし、これにはデメリットがあります。それは、それまで自分が取り掛かっていた仕事を中断しチャットやメールに対する対応をすることになるので、集中力が散漫になってしまいます。返信が完了してからそれまで取り掛かっていた仕事に戻るのですが、集中力を戻すのに時間がかかります。この集中力を戻すまでの時間が無駄であると考えます。
「マニャーナの法則」では、基本的に「今すぐ」の対応をすることを否定します。お客様は税理士に必ずしも「今すぐ」の対応を求めているわけではないのではないでしょうか。もちろん案件によっては緊急事態で「今すぐ」の対応が必要な時もあるでしょうが、これまでの経験上、稀なことです。
つまり、お客様が求めていない「今すぐ」の対応に翻弄されて「自主的に取り組む仕事」をする時間を失っているのです。
これからは、一日の中でチャットやメールを確認する時間を事前に設定し、常に通知が届く状態にはしない。そしてチャットやメールを確認したタイミングで即回答ができるものはその場で返信するものの、検討が必要なものへの回答は翌日とさせていただく。このような対応でもお客様にとって不都合がないのではないだろうか。このようにして、翻弄される時間を少しづつ減らすことで、時間を確保し「自主的に取り組む仕事」をしていきたい。
チャットやメールへの対応にあるように、私のこれまでの仕事のやり方は、目の前の事象に反応して進める場当たり的な対応で仕事をしてきたといえます。すべての仕事が「今すぐ」の対応が必要であると勝手に決めつけて仕事をしてきました。
これからは「マニャーナの法則」の「明日まで待てないほど、緊急な仕事はない」という考え方をもち、仕事に一日分のバッファー・ゾーンを設けることで、「今すぐ」「今日中に」「明日やる」区分けをしてから仕事に取り掛かりたいと思います。このことで、「受け身の仕事」を確実にこなしつつ「自主的に取り組む仕事」に取り組み、税理士として研鑽しより良い価値提供ができるようになりたい。
本書(『仕事に追われない仕事術 マニャーナの法則』マーク・フォースター著)では以下のように述べられています。
大切なのは、バッファー・ゾーンで仕事を整理する上で、この「緊急のレベル」を3つに分けて見ていくことです。緊急レベル1 今すぐ 緊急レベル2 今日中に 緊急レベル3 明日やる 結論を先にお伝えすると、この3つのうち「 ③明日やる」を基本にするのがベストです。明日なら相手から「遅い」と言われることも少ないし、計画も立てやすくなります。それでも、本当に緊急な仕事はすぐにやらざるを得ないので、それを「 ①今すぐ」か「 ②今日中に」に分類することにします。
よくあるミスには 2種類あります。1つは、何でも「今すぐ」にすること。もう1つは「後で」にしたまま、取りかかる時期を曖昧にしておくことです。実際、仕事を「今すぐ」と「後で」の2つにしか分類しない人はたくさんいます。しかし、この分類では「後で」はほぼ「やらない」になります。それを自覚しているから「今すぐ」を手いっぱい抱え込むことになってしまうのです。「今すぐ」が多すぎるということは大問題。仕事に振り回されて、集中できず、毎日がストレスだらけになるからです。自動車整備士のジョーがその好例でしょう。顧客の要望に応えようとする姿勢は、当初は喜ばれますが、結局は、計画的なミックには勝てません。何度も言いますが「今すぐ」の対応が必要なのは「特殊な職業の場合」または「本当に緊急の仕事」だけです。それが問題になるなら、あなたの問題ではなく組織やシステムに原因があるのです。
メール、電話、書類、タスク、デイリー・タスクの対処法がわかりました。「これで仕事は全部カバーできた!」と言いたいところですが、まだ不十分です。実は、これらはすべて〝受け身の仕事〟です。あなた自身の成長のためにも〝自主的に取り組む仕事〟に時間を割く必要があります。
「〝忙しいだけの仕事〟を捨てて、チャレンジングな〝本当の仕事〟に集中せよ」という仕事の本質に触れた部分です。著者が言う〝本当の仕事〟こそがあなた自身とあなたのビジネスを成長に導くものであるからです。