「平熱のまま、この世界に熱狂したい」から学ぶ、税理士としてお客様に寄り添うということ

税理士として、日々お客様と向き合う中で、常に心に留めていることがあります。それは、「お客様に寄り添う」とはどういうことか、ということです。

数字や税法に基づいたアドバイスはもちろん大切ですが、それだけでは真のサポートとは言えないのではないか、と自問自答することも少なくありません。

そんな中、宮崎智之さんの著書『平熱のまま、この世界に熱狂したい』を読み、このことについて考えてみました。

「わかったつもり」の危うさ、そして想像することの大切さ

宮崎さんは著書の中で、下記のように述べています。

相手のことは理解できないし、自分のことも伝わらない。それでも想像しようとすることをやめたいとは、僕は思わない

この言葉は、私にとって深く心に響くものでした。税理士として、お客様の状況や気持ちをわかったつもりになることは、時に大きな誤解やミスを招く可能性があります。数字や書類だけでは見えてこない、お客様の背景にある想いや悩みを想像し、理解しようと努めることこそが、真の寄り添いへと繋がるのではないでしょうか。

「社会の言葉」と「個人の言葉」の狭間で

宮崎さんは、ある女性とのやり取りを通して、「社会の言葉」と「個人の言葉」の葛藤を下記のように描写しています。

「外出自粛はあくまで、皆さまへのお願いです」という「社会の言葉」と、「私はそうは思いません」という「個人の言葉」(中略)どちらもひとりの人間から出た、真実の言葉であるはずなのに、そこには絶望的なまでの「距離」が生じていた(中略)あのとき、女性が個人の言葉を発してくれたおかげで、僕がどれだけ救われたことか。どんなことであれ、「返答」には責任が生じてしまうことを、僕は知っている(中略)「個人」を複雑な「社会」に晒し、言葉を発してくれた。女性のたった一言で、僕はあのとき、確かに救われたのだった。

税理士として、税務に関する相談に対しては、常に正確な情報を提供し、税法に則ったアドバイスをする必要があります。

しかし、それだけでお客様の不安や疑問が解消されるとは限りません。時には、「社会の言葉」である税法や制度の杓子定規な説明だけでなく、自分ならこう考える、といった「個人の言葉」で語りかけることで、お客様の心に寄り添い、真の安心感を与えることができるのではないかと思います。

身近な人を大切にすることから始まる

宮崎さんはまた下記のようにも述べています。

卑近なこと、身近なことばかりに目を向けることへの批判も一理あるのだが、大きなこと、小さなことで先行的に存在するのは、いつでも後者、身近なものへの想像力であるはずなのだ

税務の世界は、常に変化する税法や複雑な制度に翻弄されがちです。税理士という立場から、税務はこうあるべきだ、こういった制度が必要なのではないか、といった社会に対して大きなことを論じるのも重要かもしれません。

しかし、目の前のお客様を大切にし、その方の声に耳を傾けることから、全てが始まるのではないでしょうか。

身近な人を大切にすることこそが、より良い社会、そしてより良い未来へと繋がっていくのだと著者から気づかされました。

お客様と共に歩む税理士でありたい

著者同様、私自身も政治や社会といった大きな事柄を論じることは得意ではありません。しかし、目の前のお客様の悩みに寄り添い、共に解決策を探っていくことには、大きな喜びとやりがいを感じています。

『平熱のまま、この世界に熱狂したい』を読んで、改めて「お客様に寄り添う」ことの大切さを再認識しました。これからも、お客様一人ひとりに耳を傾け、共に歩んでいける税理士でありたいと思います。