シンプルな経理を支えるのは税理士の役割 〜『Mac Fan 2024年3月号』を読んで〜
スティーブ・ジョブズが「シンプルであることと複雑であること」について言及していたことの記事を読み、「シンプルであること」は、税理士と顧問先経営者が直面する経理に関しても通ずるものであると考えます。
ここで、ジョブズのもう一つの言葉を引用したいと思います。それは「シンプルであることは、複雑であることよりも難しい」というフレーズです。実は、シンプルにすること、シンプルであることは難しく、放っておけば複雑化し、その状態でいるほうが楽になっていく、というジレンマを抱えているのです。継続的に努力を重ね、思考をクリアにし、シンプルであろうと努めなければ、シンプルのままではいられません。「だけど、それだけの価値はある。 なぜなら、ひとたびそこに到達できれば、 山をも動かせるからだ」とジョブズは続けています。コンピュータを含め、身の回りの道具が、自分をいかに拡張してくれるのか。あくまで自分主体で判断する視点を忘れないことは、道具をシンプルに使いこなす最大のコツと言えるのかもしれません。
経理がシンプルであり続けるには
顧問税理士としてお客様に関与させていただく時には、顧問先の経理がどのように行われているのかその流れを確認させていただいています。そして、その確認をする際には、経理が「シンプル」であるかを意識して確認しています。私は経理については複雑にせずに「シンプルであること」を重視しています。
経理に「シンプルであること」と「複雑であること」いずれを求めるかと問われたら、「シンプルであること」を選ぶ方が多いのではないでしょうか。
誰しも事業をはじめた当初は、経理はシンプルであったと思います。それが月日が経つごとになぜか複雑になってしまっている。複雑になるにつれて自分でも把握しきれない部分が生じ、しまいには自分のことなのに自分の経理内容の説明がつかなくなる可能性すらあります。
ではなぜ経理が複雑になってしまうのでしょうか。決して複雑になることを望んでいるわけではないのに経理が複雑になってしまうのはなぜなのでしょうか。
おそらくシンプルであり続けるには、シンプルであることへの意識と努力が必要なのでしょう。シンプルであり続けることを意識し努力しなければ経理は複雑化していくものと理解することが第一で、第二にシンプルであり続ける意識と努力を継続することが必要であると考えます。
経理がシンプルであることのメリット
経理は「シンプルであること」が良いことで「複雑であること」を避けるべきであると考えます。では、なぜ「シンプルであること」が良いことなのでしょうか。
まずは、経理がシンプルであることにより、経理に費やす時間が削減され、その代わり営業に時間を投下できます。経理は事業における過去、現在、未来を考えることに大切な情報を提供するものであるとともに、税務申告の上でも必須なものです。しかし一方で営業のように直接的に利益をもたらすものではないから、できることなら時間をかけたくないものです。経理に費やす時間が減れば、営業に時間を投下することができ、利益の確保がしやすい状況になると考えます。
また、経理がシンプルであれば、経営者自身が経理について当事者意識を持ち続けることができます。経理が複雑になればなるほど経営者自身は経理を把握しきれない状況になり、経理担当者や税理士にまかせる意識になりがちです。経理についての当事者意識がないと、経理に興味がなくなり会社の業績がわからなくなってしまうのです。
経理に興味を持ち、経理から導き出される業績をタイムリーに把握していると、いざという時の経営判断に活かせますが、一方で、経理に興味がなく、会社の業績をタイムリーに把握できていないと経営判断が遅れてしまいます。迅速な経営判断のためには経理がシンプルであることが重要となるのです。
経理がシンプルであるために税理士がサポートできること
経営者は、自身の商売のことを第一に意識して行動するのは当然のことです。その行動の結果として経理がどうあるべきかの論点が生じます。先に述べたように経理がシンプルであることのメリットを享受するためには、経営者自身がその行動の末に経理がどうなるのか、シンプルであり続けることができるのか、または複雑化するのかの意識を持つべきではありますが、実際にはそこまでの余力を残すのが困難でもあります。
そこで、私は顧問先である経営者の行動の結果である経理を見て、もし複雑化している兆候があればそれを指摘し、シンプルにするための軌道修正を促すことが顧問税理士のひとつの役割なのではと考えます。
また、経理をシンプルにするには、シンプルであることへの意識や努力はもちろんのこと、会計や税務に関する知識も必要です。せっかくシンプルな経理の方向性を見出しても、その方向性が会計や税務において問題があっては本末転倒です。会計や税務に関する知識を経営者自身が網羅することは難しいとも言えるため、そのためにも専門家である税理士によるサポートが必要なのではないかと考えます。
経理がシンプルであり続けることは、顧問先にとって有益なものです。そのためにも、私は税理士として顧問先のシンプルをサポートする存在であろうと考えます。