「雨の日の心理学」から学ぶ、顧問先を支える税理士の在り方
東畑開人氏の著書『雨の日の心理学 こころのケアがはじまったら』を読み、税理士業務における姿勢や在り方について考えさせられました。
特に印象に残ったのは、
晴れの日には正しいケアも、雨の日には間違いになることがある
という一節です。
これは、顧問先の状態によって適切な対応が異なることを示唆しており、税理士業務にも通じるものがあります。
税理士業務における「晴れの日」と「雨の日」
税理士業務における「晴れの日」とは、顧問先の事業が順調で、経営者も前向きな状態を指すと言えるでしょう。この状態では、通常の税務申告や税務相談といった「晴れの日の心理学」に基づいた対応で十分です。
しかし、事業が不振に陥ったり、経営者が精神的に不安定な状態に陥ったりする「雨の日」には、従来通りの対応では逆効果になる可能性があります。
相手の具合が悪いとき、病んでいるとき、非常事態のときに、どうすればこころをケアできるのかを教えてくれるのが雨の日の心理学
と東畑氏は述べています。
雨の日の心理学を税理士業務に活かす
では、具体的にどのように「雨の日の心理学」を税理士業務に活かせるのでしょうか?
著書では、
ケアとはニーズを満たすことである
と定義されています。
雨の日の顧問先は、通常の税務のサポートに加えて、精神的な支えや共感を求めている可能性があります。そのため、顧問先の状況を深く理解し、寄り添う姿勢が重要になります。
例えば、事業が不振に陥っている顧問先に対しては、単に財務状況を分析するだけでなく、経営者の不安や悩みに耳を傾け、共感する姿勢を示すことが大切です。
また、
ケアとは依存を引き受けることである
という記述も、税理士業務において重要な視点を与えてくれます。
雨の日の顧問先は、税理士に対して、精神的な依存を強める傾向があります。税理士は、この依存を受け止め、お客様を支える役割を担う必要があります。
専門家としての役割と限界
東畑氏は、専門家を「専門職セクター」と「民俗セクター」の二つに分類しています。
税理士は、国家資格を持つ専門家として、「専門職セクター」に属します。社会的な信用と責任を負う立場として、顧問先に対して適切なアドバイスやサポートを提供する必要があります。
しかし、同時に
ケアなしでのセラピーは暴力になる
という指摘も忘れてはなりません。
顧問先の状況を深く理解せず、一方的に専門知識を押し付けることは、かえって顧問先を傷つける可能性があります。税理士は、専門家としての役割と限界を認識し、顧問先の状況に合わせて適切な対応をとる必要があります。
コミュニケーションの重要性
著書では、コミュニケーションの重要性についても触れられています。
特に、「PSポジション」(不安や恐怖に支配された状態)と「Dポジション」(穏やかな安心感に包まれた状態)という概念は、顧問先とのコミュニケーションにおいても重要な視点を与えてくれます。
顧問先がPSポジションにあるときは、些細なことで傷ついたり、反発したりしやすいため、慎重なコミュニケーションが求められます。一方、Dポジションにあるときは、冷静に話を受け止め、建設的な議論を進めることができます。
税理士は、顧問先の状態を見極め、適切なコミュニケーション方法を選択する必要があります。
まとめ
『雨の日の心理学』は、税理士業務における顧問先対応について、新たな視点を与えてくれました。
顧問先の状況を深く理解し、寄り添う姿勢、そして適切なコミュニケーションを心がけることで、顧問先との信頼関係を築き、より質の高いサービスを提供できると考えます。
雨の日には基本はわからない。それでも、「わかろう」とし続ける。これがつながり続けることだと、僕は思います。
この言葉を胸に、顧問先とのつながりを大切にし、共に雨の日を乗り越えていけるような税理士を目指したいと思います。