『自分力を高める』今北純一著 を読んで

成功は誰が決めるものなのか

 税理士として成功したいという気持ちがありますが、ではその税理士としての成功とは何でしょうか。

 一般的に税理士としての成功とは、他の税理士よりも多くの顧問先がいること、多くの従業員を雇うこと、大きな事務所を構えることなどが挙げられます。ここに挙げた成功に共通していることは、他の税理士と比べて数の多さや、物の大きさを競うこと。つまり、成功は他の税理士との比較によって決まっています。

 一方で、私は妻と二人のみで税理士事務所を営むことにしており、他の税理士より多くの顧問先と関与することを求めず、従業員を雇わないことから大きな事務所を設ける必要もありません。したがって、先に述べたような他の税理士と比べて数の多さや、物の大きさを競うといった基準で成功が決まるのであれば私は成功できません。

 では、私は失敗しているのかというと失敗しているとは考えていません。ただし、成功しているかと言われるとまだ道半ばであると考えています。

 著者が述べるように「自分の幸福は他人との比較ではなく、自分自身の判断で決まるもの」という考えによれば、成功は他人と比較することで決まるものではなく、自分自身の判断基準で決めるものと考えることができます。

 他の税理士と比べて成功を決めるのではなく、成功に対する自分の判断基準を設けて税理士としての成功を求めていきたい。

他人と比較することなく、自分に忠実に、身の丈にあった夢と希望に向かって邁進する、という生き方が、充実感を手に入れる確実な方法

大企業に入っても仕事にやりがいを見出せない人がいる一方で、中小企業の中で誇りを持って生き生きと仕事をしている人がいる。年収が少なくても楽しく暮らしている人がいる一方で、何億もの所得があっても不満な人がいる。結局、自分の幸福は他人との比較ではなく、自分自身の判断で決まるものなのです。こう考えていくと、誰かが決めた「勝ち負け」に一喜一憂することが、いかにバカバカしいことかに気付くはずです。

 

「個性を磨く」とは

 「個性を磨き、他の税理士と違うことをしなきゃいけない」私はこのように考えます。しかし、いざ個性を磨くといってもいったい何をすれば良いのか、そもそも個性とは何だろうかと悩みます。また、他の税理士と違うことをしようとも、どのように違いを見出していくべきなのかはっきりしません。

 著者は個性を磨くことについて、「自分が本当に好きなもの、興味があることに気持ちが向かっていけば、自分の世界がどんどん広がっていく。それが本当の意味で『個性を磨く』ということ」と述べます。

 ではここにいう「好きなもの、興味があること」とは一体何を指すのかと考えると、それは遊びや趣味が思い浮かびます。しかしながら、「好きなもの、興味があること」を遊びや趣味に限定してしまうのは短絡的かもしれません。

 実は遊びや趣味だけではなく、仕事においても「好きなもの、興味があること」があるのではないでしょうか。そして、日々の仕事の中でこれを追及していくことが個性を磨くことになるのではと考えます。

 私の場合、仕事における「好きなもの、興味があること」は、例えば、顧問先への記帳方法の提案が挙げられます。記帳方法は多種多様で、紙の出納帳を用意して手書きで記帳する方法や、Excelを活用して記帳する方法、会計ソフトに直接記帳する方法など様々な方法が考えられます。顧問先の状況と経理の効率化の視点を踏まえどのような提案をすべきか検討することは、私にとってワクワクし楽しいことです。

 一見すると仕事は、大変なもの辛いものといったイメージがありますが、日々の業務を細分化すると実はワクワクし楽しい業務があり、それは自分にとっての「好きなもの、興味があること」です。

 先に述べた私の例で言えば、記帳方法の提案という「好きなもの、興味があること」に向き合い追求していくことが、自分の税理士としての個性を磨くことにつながると考えます。

 つまり、「他の税理士と違うことをしなきゃ個性を磨けない」と気負うのではなく、日々の業務における自分にとっての「好きなもの、興味があること」に真摯に向き合っていくことが税理士としての個性を磨くことにつながるのではないかと思います。

日本ではよく、「若者はもっと個性を発揮すべきだ」とか、「個性を磨くべきだ」などと言われます。(中略)他の誰も持っていないような特殊なスキルを持つことが個性的であることの条件のように受け取られていますね。 このように考えると、「個性=人より目立つこと」と、多くの人が錯覚しているのではないかと思います。(中略) 真似しようとしても真似できないのが、個性というものなのです。 あなた自身が「楽しい、面白い、不思議だ、ワクワクする、ドキドキする」と感じ、心から求めているものを優先すれば、それでいいのです。「磨く」とか「発揮する」などと意識しなくても、自分が本当に好きなもの、興味があることに気持ちが向かっていけば、自分の世界がどんどん広がっていく。それが本当の意味で「個性を磨く」ということです。

「他人と違うことをする」ことが個性につながると錯覚しないことが大切です。

 

リスクを取らぬ者に栄光なし

 リスクは避けたいものです。リスクと安定のどちらをとるかと聞かれたら、私は安定と答えます。しかし、2014年に独立開業してから9年ほど経ちますが、これまでを振り返ってみると要所要所で私はリスクをとってきたことに気付きます。

 例えば、独立開業することはリスクです。勤めていれば毎月安定した給料が望めますが、自営業となれば収入が安定せず、収入がゼロの可能性があるからです。

 また、会計ソフトを変更することもリスクです。長年使い慣れた会計ソフトを使い続ければ、操作方法に困ることなくこれまで通りに業務を進めることが望めますが、会計ソフトを変更すれば操作方法に困ることもあり、業務が滞る可能性があるからです。

 このほかにも、大小様々なリスクはありましたが、振り返ってみると、リスクを取ってきたことで安定した今があり、リスクを取ってきたことで安定した未来が期待できることを実感しています。

 これまでの経験から、安定を求めるにはリスクを取ることが必要だと考えます。リスクを必要以上に恐れず、自分の許容範囲を冷静に見定めたうえで、リスクを取り続けていきたい。

リスクを取らないということは現状維持であり、行動を何も起こさないということだからです。行動を起こさなければ、新しい出会いも刺激も感動も発見もなく、これまでと違う世界はまるで見えず、変化は何も起こらない。変化がまったく起こらなければ、新しい情報も、知識も知恵も、そして新しい経験も人間関係も、何一つ自分の手に入らない。これから先の人生で、新たに得られるものが何もなく、成長の可能性もゼロというのは、人生における最大のリスクでしょう。

「リスクを取らぬ者に栄光なし( No risk, no glory. )」バッテル研究所にいた頃、独創的な研究業績をいくつもあげていたアラン・ハーマーという研究員が、ある重要な交渉の場面で口にした言葉です。