『リーダーの仮面ーー「いちプレーヤー」から「マネジャー」に頭を切り替える思考法』安藤広大著 を読んで

 

顧問先に対して「いい人」になろうとしていないか

 税理士である私にとって顧問先は大切なお客様です。ゆえに顧問先から気に入られたい、仲良くやっていきたい、いい人と思われたいという感情が芽生えます。しかし、この感情の赴くままに顧問先と接することはお互いにとって良い事ではないと考えます。

 例えば、経理は手間がかかるため顧問先にとってはなるべく楽をしたいのが心情です。この心情を汲み取り顧問先から「いい人と思われたい」がために「大変でしょうから経理は適当でいいですよ」などとお伝えしてしまうと、顧問先としてはそれを聞いた時は喜ぶかもしれませんが、その後、顧問先は経理をきちんとしなかったことによるリスクを伴うことになります。

 また、税務には経費になるのかならないのか一見すると判断できないグレーゾーンのものがあります。顧問先にとってはなるべく経費にしたいのが心情です。この心情を汲み取り顧問先から「いい人と思われたい」がために経費性を検証する事なく「経費でOKですよ」とお伝えしてしまうと、顧問先としてはそれを聞いた時は喜ぶかもしれませんが、その後の調査で経費と認められないことによるリスクを伴うことがあります。

 お客様である顧問先から「いい人と思われたい」に比重を置き過ぎてしまうと、顧問先に不利益をもたらす事につながります。顧問先にとっての「今の利益」ではなく「未来の利益」を得ていただくため、税理士が「いい人と思われたい」という感情の赴くままに行動してはいけないと考えます。

世の中には、「フレンドリーな人がいい人である」という固定観念があります。フレンドリーだと、表面上の恐怖が減るので快適になります。しかし、成長に必要な恐怖も感じにくくなってしまうので、緊張感がなくなり、なあなあの関係になってしまいます。

数字に厳しい上司は、今の部下にとっては嫌なものでしょう。しかし、「未来」に視点を移すと、「あのときは大変だったけど、頑張っておいてよかった」と、部下にとってその上司の存在はプラスに転じます。逆に、優しい上司は、今の部下にとってはいい上司ですが、「未来」に視点を移すと、部下は成長できないためマイナスの存在となります。そうやって未来から逆算して考えるのが、リーダーの役割です。仮面をかぶり、「位置」を意識するようにすれば、「今の利益」を脇に置いて、「未来の利益」を選ぶことができるのです。

「従業員満足度」を気にする経営者がいます。「楽しく働いてもらう」ことに力を入れる経営者もいます。しかし、これらは社員の「今この瞬間」の利益にしかフォーカスしていません。そうではなく、今を含めた未来にしっかり利益を与えること。それが求められているのです。本質にもとづいた、本質的な利益を与える。しかも、今だけでなく未来への利益を与える。それが今後ますます大切になってくるのです。

税理士と顧問先のルールを決める

 前述したように顧問先に「未来の利益」を得ていただくためには、税理士と顧問先とのルールを決めることが必要と考えます。

 なぜなら、ルールがあることで税理士としては「いい人と思われたい」という感情の赴くままに行動する事を止めることができ、顧問先としては税理士に何を依頼すべきかが明らかになるからです。

 顧問先とのルール作りの一つとして顧問契約書があります。顧問契約書を作成しその内容を顧問先とともに確認することで、税理士として提供するサービスの範囲が明確になります。独立当初は顧問契約書の重要性を理解していなかったので顧問契約書を作成せずに関与させていただいていたのですが、サービスの提供範囲が曖昧になり、お互いのコミュニケーションに混乱が生じる恐れがあったので現在では顧問契約書を作成しています。

 顧問契約というルールがあることで、税理士である私としては安心して業務を受けることができ、顧問先としては安心して業務を依頼できる関係が築けるようになったと思います。

「ルール」と聞いて、直感的にどう感じるでしょうか?おそらくネガティブなイメージでしょう。がんじがらめで不自由な印象があるからです。しかし、実際には逆です。ルールがあるからこそ、人は自由になれるのです。国には法律があり、道には道路交通法があります。だから安心してビジネスができたり、安全に道を歩くことができます

ルールがあることはストレスをなくします。逆に、ルールが多くて成長が止まったという話は、聞いたことがありません。ルールがあるからこそ、安心して信号を渡ることができるのです。そのことを押さえておきましょう。

「言わなくてもわかってもらえるだろう」「察してくれるだろう」そういったマネジメントは、もうやめにしましょう。無法地帯で空気を読むことを強制してはいけません。

変化は知識から生まれるわけではない

 これまで自己研鑽のために書籍を読んだりセミナーを受講しモチベーションを高めてきましたが、実際にそこで得た知識をもとに行動したことは限られています。行動に至っていないことが多いということは、「自分が変わったような気分になる」ことで満足している事が多いということです。

 知識を得るためにかかった費用が大きければ自分が変化できるものではなく、結局は自分が得た知識を元に行動しなければ自分の変化を実感できません。

 例えば、私はfreee会計という会計ソフトを利用しており、このソフトには業務を効率化をするための機能が数多くあります。これらの機能を活用するためにマニュアルを読んだり、セミナーを受けたりしますが、この段階では頭で分かった気になっただけで実際には活用できません。実際に手を動かしてその機能を試すこと、行動する事ではじめて活用できるようになります。

 知識を得ることはあくまで変化へのきっかけの一つであり、行動が伴ってはじめて変化が生まれることを肝に銘じていきたい。

「人は経験とともにしか変わらない」ということです。多くの人は、こんな勘違いをしています。「たくさんの知識を得れば変われる」「勉強すれば変われる」「偉い人から話を聞けば変われる」この本を読んでいるあなたも、もしかしたら読んだだけで変われると思っているかもしれません。しかし、これらは、すべて錯覚です。知識の量を増やすだけでは、本質的な「変化」にはつながりません。ここを正しく認識できないと、本を読んだり、偉い人の話を聞いたりするだけで「自分が変わったような気分になる」ので注意です。ムダに知識の量だけが増えると、行動にブレーキをかけるようになります。知識は経験と重なることによって、「本質」にたどり着きます。つまり、身体性を伴わなければ、意味を持たないのです。「起業についてのセミナーにばかり行って、気づけば起業しないまま 5年が経っていました」という人がいます。変化は知識から生まれるわけではないのです。

「労力」と「期待値」のバランス的に、人間がいちばん気持ちいいのが、「やった気になる」ということなのです。セミナーに行ったり、英会話教室やジムに入会したりすることもそれと同じです。それらは、一見コスパがいいように思えますが、実態はまったく違います。得られるのは「変われそうだ!」という一瞬の快感だけです。