「大きく」より「良い」を。『ステイ・スモール』から学んだ税理士としての在り方
こんにちは、栃木の税理士伊沢です。
書籍『ステイ・スモール 会社は「小さい」ほどうまくいく』を読みました。この本から、税理士業務をする上でのヒントがいくつかありましたので考えていきたいと思います。
規模を追い求める必要はあるのか?
私たちは、常に「成長」を求められる社会に生きています。会社を大きくすること、従業員を増やすこと、売上を伸ばすことが成功の絶対的な条件だと信じ込まされがちです。
事実、私も独立する前そして後において、事務所を大きくすること、スタッフを増やすこと、顧問先を増やし売上げを伸ばすことが税理士事務所経営の在り方であるといった意見を頻繁に見聞きします。
しかし、この本ではその常識に疑問を投げかけています。著者のポール・ジャルヴィス氏は、会社を「大きくする」ことだけがビジネス戦略として効果的ではないと述べ、次のように引用しています。
永遠につづく成長などない。それにもかかわらず、従来のビジネス人はそれを求めてきた。しかし、なんのために成長を追い求めるのか。オックスフォード大学がそれほど成功しているのなら、どうしてワシントンDCにもキャンパスをつくらないのか。もし交響楽団が120人の団員でうまくいっているのなら、どうして600人に増やさないのか。「大きくする」のは、ビジネス戦略として効果的とはいえない。- リカルド・セムラー(セムコ・パートナーズ社CEO)
この言葉は、税理士の仕事にも通じるものがあります。事務所の規模を拡大し、スタッフを増やし、顧問先数を際限なく増やすことが本当に目指すべき姿なのでしょうか。
確かに売上や顧問先数は大事です。ですが、そればかりを追い求めると、どこかで無理が生じ、肝心な「質の高いサービス」がおろそかになってしまうリスクがあると感じています。
規模拡大の「獣」を飼いならす
ジャルヴィス氏は、規模拡大を盲目的に追い求めることを「獣(けだもの)」に例えています。この獣は飽くなき食欲を持ち、満たされることがありません。
この考えでは、規模が小さいままだと、うまく拡大ができていないとみなされる。しかし、ビジネスにおけるこの考え方を疑ってみたらどうだろうか。さらなるものを加えることなく問題を解決する方策として、あえてビジネスを小さいままにしておくのだとしたら?
税理士業務においては、売上や顧問先数が増えれば増えるほど、その管理のためにさらに多くの時間やコストがかかります。スタッフを雇えば、その管理や教育に時間を取られ、税理士として目指すべき姿勢の一つである「お客様に寄り添うこと」がおろそかになる可能性も出てきます。
この本で示しているように、規模拡大は必ずしも問題の解決策ではありません。それどころか、複雑さが増し、弾力性や自由を失うことにつながるのです。
会社を大きくしたら、たくさんの従業員と大量の仕事を管理しなければならなくなり、それを維持するのに“十分”な金額も大きくなる。
もし、私が闇雲に規模拡大を目指していたら、お客様一人ひとりとじっくり向き合う時間がなくなり、画一的なサービスしか提供できなくなっていたかもしれません。もしかしたら、それでは、お客様が本当に必要としている「より良い解決策」を提案することは難しくなると考えます。
「量」より「質」を選ぶということ
この本を読んで私が強く感じたのは、税理士として「もっと大きく」ではなく「もっとよく」を目指すべきだということです。
カンパニー・オブ・ワンが問わなければならないのは、”ビジネスをもっとよくするにはどうすればいいか”であって、”ビジネスをもっと大きくするにはどうすればいいか”ではないのである。
お客様は、単に決算書や税務申告書を作成してもらうためだけに税理士を求めているわけではありません。お客様が直面している課題を理解し、その解決策を一緒に考え、事業の成功を心から願ってくれるパートナーを求めていると思います。
税理士として「もっと大きく」ではなく「もっとよく」を目指すべきために、この本ではいくつかのヒントを提示してくれています。
まずは、「十分」な状態を明確にする、ということです。
この四半期に最低でも100万ドルを売り上げたいが、140万ドルを超えないようにいたい
この本では、成長に上限を設けるというユニークな考え方が紹介されています。税理士事務所にとっての「十分」とは何でしょうか?それは、安定した経営を続けながら、質の高いサービスを提供できる顧客数や売上額のことです。この「十分」な状態を明確にすることで、不必要な成長競争から解放され、本当にやるべきことに集中できると考えます。
次に、シンプルさを追求する、ということです。
製品やサービス、管理の層、仕事のルールやプロセスが増えすぎると衰退につながる
業務プロセスをできるだけシンプルに保つことで、お客様とのコミュニケーションに割く時間を増やし、本質的なサービスに集中できます。不必要、かつ複雑な手続きをなくすことは、お客様にとってもメリットとなります。
次に、 「お客様第一」の姿勢を徹底する、ということです。
新規の顧客を獲得するには、既存の顧客を維持する5倍のコストがかかる
この本が指摘するように、多くの企業は新規顧客の獲得に躍起になり、既存顧客への対応がおろそかになりがちです。しかし、既存のお客様を大切にすることこそが、長期的な信頼関係を築き、安定したビジネスを続けるための鍵です。
私は、今お付き合いのあるお客様に満足のいく価値を提供することに、全力を尽くしていきたいと考えています。
おわりに
税理士の仕事は、単なる数字の計算や申告書を作成するだけではありません。お客様のビジネスや人生に深く関わる、とてもやりがいのある仕事だと感じます。この『ステイ・スモール』という本は、私にとって、税理士としてのあり方を改めて考える良いきっかけとなりました。
これからも私は、「量」ではなく「質」を追求し、お客様一人ひとりに深く寄り添う税理士であり続けたいと思います。そして、お客様と共に「より良いビジネス」を築いていきたいと考えています。