「資金を増やすためには納税」について考える 〜『税理士必携 顧問先の銀行融資支援スキル 実装ハンドブック』諸留 誕 著を読んで〜

資金を増やすには納税をする

 利益が出れば納める税金は増えるものです。利益とは会社が努力の末に得るもののため、頑張れば頑張るほど税金を多く納めることに経営者としては違和感を感じる方も多いのではないでしょうか。

 このときに「納税は義務だから」といった、杓子定規な法律論で経営者を諭しても、それは頭では理解しても心では納得できるものではないのかもしれません。

 納税することが自分にとってメリットを感じるものでなければ納得できないのではないかと思います。

 では納税することで得られるメリットとはなんでしょうか?

 それは納税することで資金が増えるということです。納税しているのに資金が増えるとはどういうことなのでしょうか。

 会社経営の末に資金を獲得するには、利益を出しその利益で得た資金をもとに納税します。そして納税後に残ったお金が手元に増えた資金です。ポイントとしては、資金は納税した後でしか増えないということです。

 経営をしていく上で大事なのものは、つまるところ「資金」だと考えます。売上でも利益でもなく、資金が第一で、資金があるからこそ経営を続けることができ、売上や利益が成り立つものです。

 資金がある会社と資金がない会社とを比べると、資金がある会社の方が資金の獲得がよりしやすいといえます。例えば、資金がある会社は、営業の広告を出すにあたりその費用に躊躇することなく進めることができます。その広告の効果により売上が上がり利益が増え、そして資金が増えます。

 資金があると、その資金を獲得するための事業活動がしやすくなり、結果としてさらに資金が増える好循環ができます。つまり、納税することで手元の資金が増え、その資金を元にさらなる資金を得るというメリットを受けられるのです。

 このメリットを理解したうえで、納税し、資金を増やして経営をしていくべきと考えます。

 

節税はすべきかすべきではないか

 節税についてはどのように考えたらいいのでしょうか。

 先述した通り,利益から税金を納税し、その後に残った資金が純粋に増えた資金です。であれば、その納税する額を減らすこと、つまり、節税すれば手元に残る資金は増えるものと一般的には考えられるのではないでしょうか(節税には「支出を伴う節税」と「支出を伴わない節税」がありますが、ここでいう節税とは「支出を伴う節税」をいいます)。

 このため、経営者は節税を意識するのですが、ここに注意点があります。それは節税するとお金が減ることです。しかも、節税することで減った税金以上に資金が減ることに注意が必要です。

 日本の税率を簡易的に30%と仮定すると、実際に300万円節税するには、経費を1,000万円支出しなければなりません。つまり、節税しない場合は納税により300万円手元の資金が減りますが、節税する場合は700万円手元の資金が減ることになるのです(経費1,000万円ー節税300万円)。これは節税をすると手元の資金が増えないことを表します。

 資金を増やすことを目的としながらも、納税を嫌い節税したがために手元の資金が減るという本末転倒の事態が起きてしまいます。

 そのため、資金の増加に着目する場合には、一概に節税が良いものとは言い切れないものです。節税をするのであれば著者が下記で述べるように、将来の資金増加が見込める「投資か前倒し」の節税であれば良いのではないかと考えます。

「支出をともなう節税」 自体が悪いわけではありません。この点、筆者は社長に 「投資か前倒しであればOK」と伝えています。投資とは、将来の収入増や利益増を見込める支出です。 前倒しとは、予定していた支出の時期を前にズラすことによる支出です。これらではない、収入増や利益増を見込めない支出や、場当たり的な支出は、推奨できません。

 

節税を考えるタイミング

 黒字になる見込みが立つと、節税を意識する経営者は多いと思います。そして、節税はするが黒字で決算を終えたい場合どのくらい節税しても良いものか、どのくらい黒字を残しておけば良いのかと考える方は多いと思います。

 そのときには、先述したようにその節税は「投資か前倒し」なのかの確認と、実際に資金が増えているのかキャッシュフローの確認をしてから節税をするようおすすめしています。

 この件に関して著者においては下記のように述べており、黒字=節税ではなく、まずはキャッシュフローの増加を第一に考えるべきとされています。

少なくとも、「簡易キャッシュフロー<年間返済額」の状況にある会社は、節税をしている場合ではありません。出せる利益はきちんと出して、まずは「簡易キャッシュフロー>年間返済額」を目指すべきであり、節税するならそのあとです。

 また、どのくらい黒字を残していけば良いかという問いに対しても、著者は「債務超過になる可能性と、それに伴い融資が困難となる可能性の増加」の観点から検討すべきものとしており、私も同意するものです。

決算で「ちょっとだけ黒字」 を目指そうとする社長は少なくありません。 「赤字では融資が受けにくくなるし、黒字が大きいと税金が高くなる。 それならば、ちょっとだけ黒字にしよう」という考えです。 しかし、前述の「借入余力が減る」 問題に加えて、2つの問題が生じます。1つめの問題は、債務超過になりやすいことです。ちょっとだけ黒字の場合、利益剰余金は少ししか増えません。ゆえに、ちょっとした赤字でも債務超過に陥ります。 債務超過もまた、銀行融資を受けにくくすることを忘れてはいけません。2つめの問題は、粉飾を疑われることです。 「ちょっとだけ黒字」は、いかにもつくったような数字に見えるため、 銀行から粉飾を疑われます。 不良資産や架空資産があるのではないか、 簿外債務があるのではないかなど、 追及を厳しいものにしてしまいます。

 以上のように、節税を実行するにはそのタイミングを見極めて行うことが、資金の最大化につながるものであると考えます。