「規則性」だけではなく「偶然性」も大事にしたい 〜『SNSの哲学 リアルとオンラインのあいだ』戸谷 洋志 著を読んで〜

数年前から、Amazonのおすすめにでてくる書籍の中から本を買う機会が増えました。

なぜなら、実店舗に出向かずに本を買えるという利便性はもちろんのこと、Amazonからおすすめされるものは、購入履歴に基づいて自分に興味関心があるテーマのものが選ばれていることから、これらの中から選んで購入したものは、自分に合わないハズレ書籍である可能性が低いからです。

ただし、Amazonのおすすめをもとに購入することは、ハズレ書籍を回避するメリットがあるものの、常に同じようなテーマの本を読むことになるため、飽きがでてくるのと、さらには、世の中で出版されている本は、まるで自分が選ぶジャンルの本が主流なのかという錯覚さえ覚えてしまいます。

そんなある時「ブックカルテ」というWebサービスを知りました。このブックカルテは、そのサービスに登録している本屋さんが自分にあった本を選書し、配送してくれるというサービスです。

選書にあたり事前にいくつかのアンケートに答え、それをもとに選書してもらうのですが、その質問内容の一つに「興味がある本のジャンルや、興味関心があるキーワード」を記載する欄がありました。

おそらくこの質問の意図は、利用者に合わないハズレ書籍を選書することがないよう配慮していることかと思いますが、もしかしたらAmazonのおすすめと同じような本を選書してもらうことになってしまうのではないかと思い、アンケートには「自分が選ばないであろう本を選書してもらいたい」と記載させていただきました。

選書が終わると数日後に5、6冊ほどの本が手元に届きました。選書していただいた書籍はどれも「知らない本、選ばないであろう本」でしたが、いずれも「読んでみたいと思わせてくれる本」「選書してもらわなければ出会わなかったであろう本」でした。

新たな本に出会い、その内容に触れることで、自分の視野が広まったことを実感しました。Amazonのおすすめには出てこない本に出会えたことで、自分の視野が広まり、さらには、相乗効果でこれまで興味関心を持っていたことにも深みが増します。Amazonのおすすめというアルゴリズムにだけ頼るのではなく、ランダムな偶然の出会いがないと、自分の殻を破ることができないと実感しました。

アルゴリズムによる最適化は、本との出会いをまったくちがうものにします。たとえば、 Amazonのおすすめに基づいて本を買うとき、私たちはもともと自分が好きな可能性の高いものを推薦され、そのなかから選んで買うということになります。当然、それが「私」にとって「ハズレ」である可能性は低くなりますが、それは同時に、人生を大きく変えるような本との出会いがなくなってしまう、ということでもあるでしょう。なぜならそうした本は、それまでの「私」が選びそうな本は異なる本であり、それゆえにまったく新しいものを「私」にもたらす本だと考えられるからです。

アルゴリズムに従って情報に接しているとき、その情報が「私」を大きく変えることはほぼありません。「私」は、自分がもとから関心のあること、好きなこと、知りたいと思っていることにだけ、出会うことになるからです。

「Amazonのおすすめ」と「ブックカルテ」で本を買うという経験から、偶然性も重要であることは本に限ったことではないのではないかと考えるに至りました。

つまり、生きていく上でのスタンスとして、規則性のあるアルゴリズムにだけ依存するのではなく、規則性のないランダムな偶然性も重要であり、これを排除してはならないことを認識しました。

アルゴリズムに基づかない現実の出会いには「ハズレ」もありえます。たとえば偶然になかよくなった人が、実はとても性格が悪かったと後でわかり、話しかけたことを後悔することもあるでしょう。あるいはそのような事態を警戒して、そもそも知らない人とは会話をしない、という方針を採る人もいるはずです。しかし、書店における本がそうであるように、「賭け」と「責任」を伴う偶然の出会いこそが、「私」に新しい経験をもたらしてくれるのではないでしょうか。偶然出会った人との関係性から、それまでの「私」には考えることもできなかったようなまったく新しい可能性が開かれることだって、少なくないのです。