『おとなの始末』落合恵子著 を読んで

税理士という肩書き以外に自分を語れるか

 税理士資格をとってから、ビジネスの場では「税理士の伊沢です」と自己紹介をする機会が増えました。税理士という肩書きがあることで自分がどういう仕事をしているのかを相手に伝えることができ、はじめてお会いする方にも一定の信用をしていただけていることを実感します。このことから、税理士という肩書きは自分を表現するために大切なものです。

 ただし、この肩書きはどの場面においても万能なものではなく、子どもの学校関係で親が集まる場であったり、地域の方との交流の場など、一歩ビジネスの場から離れると、税理士という肩書きを使うことは適当ではありません。

 私は税理士という肩書きが使えない場で、自己紹介をすることが苦手です。なぜなら、自分という人間を簡潔に、かつ、明確に伝える言葉を現在持ち合わせていないからです。

 果たしてこのままで良いのでしょうか。もちろん今現在の自分の年齢を考えればビジネスの場にいる時間も多いので、税理士の肩書きを明示することが相手とのコミュニケーションを円滑にすることなどメリットが大きく税理士の肩書きをこれからも大事にしていくと考えます。

 しかし、人生を俯瞰して見るとビジネス以外の時間も大切です。それはつまり、税理士という肩書きを使わずに自分をいかに表現することができるかが重要であることを表します。

 さらに、税理士という肩書き以外にも自分を表現できるようになることは、ビジネスの場においても重宝するものと考えます。税理士という肩書き以外に自分を表現できるようになれば、それはほかの税理士との違いであり、お客様が税理士を選ぶ際の貴重な情報となると考えます。そして、そのことはお客様に自分を理解していただくきっかけとなります。顧問先と税理士、お互いのことを理解すること、それは顧問先へのより良い価値提供につながると考えます。

 この先、自分の体がもつまでは税理士という肩書きとともに働いていくつもりです。税理士を引退した後に、いったい自分はどのような自己紹介ができるだろうか。引退し税理士の肩書きを手放してから自分をいかに表現することができるかを探すのではなく、今からでも探していくことが大切なのではないかと考えます。

役職名など、肩にとまった赤トンボのようなもの。自分がちょっと動いたら、あるいは相手の立ち位置が変わったり新しい風が吹いたら、その瞬間に飛んでいってしまうものだ。執着するほどのものではない。

顧問先への伝え方

 税法は難解な言葉や表現が多く、納税者には理解できない内容が多々あります。そして、税理士は税法を顧問先に伝えるために、難しい内容をなるべく優しく変換して伝えることが求められます。

 そのため、専門用語をなるべく使わないよう工夫します。専門用語を別の言葉に言い換えてお伝えすることもありますが、全ての専門用語を言い換えるのは困難であり、また、無理に言い換えた末に内容に誤解を招いては元も子もないので、専門用語の言い換えの匙加減は難しいものです。

 また、税法の内容の一部を省略してポイントを絞ってお伝えすることもあります。これは、その内容全部を一度にお伝えすると、顧問先が消化不良を起こし伝わらないことを避けるためにポイントを絞ってお伝えしていくものです。しかし、省略するところを間違えると、誤解を招き顧問先に不利益をもたらしてしまう可能性があるので、どのように省略しポイントを絞るのか、その判断は難しいものです。

 伝えることは奥が深く一朝一夕に身につくものではありません。顧問先と日々向き合い、コミュニケーションをとる実践の場において伝え方は磨かれていくものと考えます。

井上ひさしさんは、いつもこうおっしゃっておられた。 ……むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでもゆかいに……(劇団「こまつ座」の雑誌『 the座』より)

ストレスと散財、利益の関係

 頑張っている自分へのご褒美として何かを買いたくなることがないでしょうか?私は繁忙期で仕事が忙しくなるとこの気持ちになります。

 仕事に追われストレスが溜まってくると、頑張っている自分へのご褒美にと、財布の紐が緩み衝動買いをする傾向があります。

 一方、仕事にゆとりがある時には、自分へのご褒美に衝動買いをしたいという欲求がでません。

 つまり、忙しさでストレスが溜まると散財してしまいます。忙しく仕事をすればするほど収入が増えますが、一方、散財をしてしまい支出が増えます。この場合、自分の手元に残る利益は増えたのでしょうか?散財をしたことで思ったような利益が残らず、一方で、冷静に考えるとそこまで欲しくなかった物が手元に残っているのではないでしょうか。

 極論をいえば、仕事をする目的は利益を出すことです。ストレスが溜まり散財してしまうほど仕事をすることはその目的に反する結果につながります。自分は何のために仕事をするのかその目的を意識して、適正な仕事量の調整を日々続けることが必要だと考えます。

なにかを「自分のもの」にしようとする時は、自覚はなくとも、ストレスがたまっている時だと。精神的に充たされている時は、「欲しい」という欲望もあまり生じず、ものは増えない。