「作業」を「仕事」に変えるために。業務の地図は明日の自分へのギフト

こんにちは、栃木の税理士伊沢です。
武内俊介さんの書籍『業務設計の教科書』を読みました。この本は主に企業のDXやシステム導入について書かれたもので、著者が提示する本質的な視点は、税理士の仕事や、顧問先の皆様の事業運営にとても参考になるものです。
この本の中から一部内容を引用しつつ、私が日々の税理士業務において大切にしている「姿勢」や「在り方」について考えていきたいと思います。
システムは「手段」であって「目的」ではない
現代の経営において、ソフトウェアやAIのシステム導入の検討は避けて通れないものとなってきているのではないでしょうか。しかし本書では、ツールを入れること自体がゴールになってはいないかと次のような指摘をしています。
システムを使うこと自体が目的になると、あらゆる課題をそのシステムで解決しようと考えてしまいがちです。たしかに、ある作業単体で見れば効率化できるかもしれません。しかし、業務とは複数の処理や判断がつながった「線」で成り立っています。その中の1つの「点」だけを自動化しても、全体への影響は限定的なのです。
税理士業務も同様で、この指摘は私としても耳が痛いものです。「どの会計ソフトを使うか」という議論の前に、「そのデータを使って、顧問先にどのような価値提供をしたいのか」「今の業務プロセスのどこにボトルネックがあるのか」という原点に立ち返る必要があります。
そして、「手段のデジタル化」に留まらず、業務プロセスそのものを見直すことが、本当の意味での価値向上につながることを改めて考えさせられました。
「作業」に追われず、「仕事」の本質を見つめる
私たちは日々、膨大なタスクに囲まれています。しかし、本書で紹介されている内田和成氏の言葉を借りれば、「仕事」と「作業」は明確に異なります。
仕事と作業の違いとは何か。私の定義では、「ある目的を達成すること」が仕事であり、「その目的を達成するための手段」が作業ということになる。
税理士にとって、記帳代行や申告書、決算書の作成は大切な「作業」ですが、それが「仕事」のすべてではありません。お客様の税務に関する不安を取り除き、未来のビジョンを共有し、意思決定を支えることが本来の「仕事」なのではと考えます。
もし、目の前の「作業」を効率化することばかりに目が向き、その先にある「目的」を見失ってしまえば、どんなに最新のシステムを導入しても、経営に本質的な価値は生まれません。
「何をやらないか」を決める勇気
生産性を高めるために、本書ではグレッグ・マキューン氏の『エッセンシャル思考』を引用し、次のように述べています。
エッセンシャル思考の人は、適当に全部やろうとは考えない。トレードオフを直視し、何かをとるために何かを捨てる。そうしたタフな決断は、この先やってくる数々の決断の手間を省いてくれる。
私は現在、お客様へのサービスの質を最大限に保つため、新規の顧問契約を制限させていただいています。これは、当事務所のリソースを「本質的な価値提供」に集中させるための、私なりのエッセンシャル思考の実践でもあります。
顧客のための特別対応がボトルネックとなり、システム導入や業務の効率化が進まなければ、かえってサービス提供が遅れたり、コストが膨らんだりするリスクが生じます。それは結果的に、顧客にとっても決して望ましい状態とはいえないのです。
「お客様は神様です」という言葉を「すべての要望をそのまま受け入れること」と勘違いしてしまうと、業務は無秩序に膨張し、結果として組織全体のパフォーマンスが低下しお客様への貢献が難しくなります。「何をやらないか」を常に意識することがとても重要です。
業務の地図は「明日の自分へのギフト」
本書で事例として挙げられた下記の言葉に、とても共感しました。
業務の地図を作ることは、「明日の自分へのギフト」
業務フローを整理し、誰が・いつ・何をするのかを見える化することは、単なる効率化の手段ではありません。これを通じたその先にあるのは、将来の自分や、共に働く仲間への思いやりにつながります。この「業務の地図」を作る意義を踏まえると、忙しいからとあれこれ言い訳をつけて後回しにせず、積極的に取り組むことができます。
おわりに
DXやAIといった言葉が溢れる時代だからこそ、人間にしかできない「判断」や「共感」、「設計」の力が問われていると言えます。
システムの「点」を追うのではなく、業務という「線」、そして経営という「面」を俯瞰する視点を持つこと。そんな姿勢で、これからも顧問先の皆様と共に歩んでいきたいと考えています。

