「環世界」という視点から税理士業務を見つめ直し信頼構築を目指すこと

いかなる製品も絶えざるモデルチェンジを強いられる。モデルチェンジをしない限り製品は売れない。

國分功一郎氏の著書『暇と退屈の倫理学』における現代社会に対するこの一節が象徴するように、消費と変化が激しく、労働もまた消費の対象となる時代です。

この流れは、税理士業務にも大きな影響を与えています。かつては、画一的なサービスを提供すればお客様を獲得できたことがあったかもしれませんが、現代ではお客様一人ひとりのニーズが多様化し、変化のスピードも加速しています。

 

税理士業務における「環世界」とは

散歩者、猟師、森林検査官、植物学者、さまざまな動物、そしてダニ…。それらが同じ一つの森を経験しているなどとはとても言えない。たしかにそこには同じ一つの森が「環境」として存在すると想像はできる。しかし、それは頭のなかで組み立てられたものにすぎない。実際に生きられている、経験されているのは、一つ一つの環世界だ。散歩者の森であり、猟師の森であり、森林検査官の森であり、植物学者の森であり、そしてダニの森である。

著書の中で特に印象的なのは、「環世界」という概念です。同じ森であっても、散歩者、猟師、植物学者それぞれが異なる世界を経験するように、顧客もまた、それぞれ異なる「環世界」を持っています。

この「環世界」とは、ドイツの生物学者ユクスキュルが提唱した概念で下記のように述べられています。

すべての生物がそのなかに置かれているような単一の世界など実は存在しない。すべての生物は別々の時間と空間を生きている

つまり、私たちは同じ物理的な世界を共有していても、それぞれの生物が知覚し、意味づけする世界は異なるということです。

 

変化する顧客ニーズへの対応

現代のさまざまな領域が消費の論理で動いていることが分かる。人間のあらゆる活動が消費の論理で覆い尽くされつつある

國分氏が述べるように、この消費の論理は、お客様のニーズを常に変化させ、お客様の「環世界」もまた絶えず変化していきます。

税理士は、お客様の「環世界」を理解するだけでなく、その変化にも対応していく必要があります。そのためには、常に最新の情報を収集し、お客様とのコミュニケーションを密にすることが重要です。

 

お客様との信頼関係の構築

かつてオフィス・オートメーションが現れたときには、機械が人間の雇用を奪うと恐れられた。しかしそれは杞憂に終わった。いまは人間が機械の代わりをしている。

お客様の「環世界」を理解し、寄り添うことで、お客様との信頼関係を築くことができます。

「人間が機械の代わりをしている」 時代において、税理士は単なる帳簿作成や税務処理を行う機械ではなく、お客様の心に寄り添い、共に成長していく存在としての役割を果たす必要があります。信頼関係は、顧客満足度を高め、長期的な関係を築く上で不可欠なものと考えます。

 

まとめ

『暇と退屈の倫理学』から得られた「環世界」の概念は、税理士業務において非常に重要なヒントを与えてくれます。お客様一人ひとりの世界を理解し、寄り添うことで、顧客満足度を高め、長期的な信頼関係を築くことができます。

本書にいう「なんとなく退屈だ」 という声から逃れるために、私たちは忙しく働くのかもしれません。しかし、税理士として、お客様の「なんとなく退屈だ」という声に耳を傾け、その世界を理解し、共に成長していくことが、真の充実感をもたらすのではないかと考えます。変化の激しい現代社会において、顧客の「環世界」を理解し、共に成長し長期的なサポートを提供できる税理士を目指していきたい。