物語に寄り添う税理士であること

税理士の仕事は、数字を扱うだけの仕事ではありません。それは、顧問先の人生、つまり顧問先の「物語」に寄り添う仕事ともいえます。

小川洋子氏と河合隼雄氏の共著『生きるとは、自分の物語をつくること』の中で、河合氏はカウンセリングの経験からこう述べています。

来られた人が自分の物語を発見し、自分の物語を生きていけるような「場」を提供している、という気持がものすごく強いです。

この言葉は、税理士業務にも深く通じるものがあるのではないでしょうか。

顧問先が抱える問題は、単なる数字や法令解釈の問題だけではなく、その背景には、それぞれの事業、そして人生における「物語」が存在します。税理士は、税務や会計の専門家であると同時に、顧問先の「物語」に寄り添い、共に未来を築いていく伴走者であるべきだと思います。

同じ強さで向き合う

税理士と顧問先との関係においても、「力関係」は重要な要素です。

京都の国立博物館の文化財を修繕する係の方が(中略)後から新しい布を足す場合、その新しい布が古い布より強いと却って傷つけることになる。修繕するものとされるものの力関係に差があるといけないとおっしゃっているんです。

この言葉は、税理士が顧問先に対して「上から目線」で接することの危険性を示唆しています。相手を「助けてあげる」「教えてあげる」という姿勢ではなく、同じ目線に立ち、共に問題解決を目指す姿勢が大切です。

顧問先の状況や心情の理解に努め、顧問先の言葉に真摯に耳を傾けることで、より良い信頼関係を築くことができるのではと思います。

物語に耳を傾ける

税理士が顧問先の相談に乗る際には、数字や法令だけでなく、その背景にある「物語」に耳を傾けることが重要です。

患者さんの深い悩みに付き添って、どこまでもどこまでも下へ降りて行くと…

河合氏のこの言葉は、顧問先の「物語」を深く理解しようとする時の税理士があるべき姿勢を示唆しているとも言えます。

数字として現れる表面的な問題の奥に潜む、言葉にならない悩みや葛藤に寄り添うことで、初めて顧問先の真のニーズを理解し、適切なサポートを提供できるのではないでしょうか。

数字の先にある「物語」を理解することで、単なる問題解決を超えた、顧問先の発展を支援することができるのではと思います。

物語作りの支援

税理士の役割は、単に税務や会計の問題を解決することではありません。顧問先が自らの力で未来へ向かうための「物語作り」を支援することでもあるといえるのではないでしょうか。

カウンセリングというのは解決方法を見つけるのは患者さんの方なんですよね。

河合氏の言葉通り、最終的な解決策を見つけるのは顧問先自身です。税理士は、その過程をサポートし、顧問先が自らの「物語」を紡いでいけるよう、寄り添う存在であるべきだと思います。共に未来を描き、その実現に向けて共に歩むことが税理士が求められていることなのではないでしょうか。

まとめ

税理士は、数字を扱うだけの存在ではありません。税理士は、顧問先の「物語」に耳を傾け、その「物語作り」を支援することで、顧問先の「生き方」を支える存在になることができるものと本書を通じて考えました。