税理士業にAIをどのように活用するのか 〜『生成AIで世界はこう変わる』今井 翔太 著 を読んで〜

税理士は、AIにより影響を受ける職業リストに記載があり、このことは書籍やwebなどで見聞きするようになりました。AIにより今後の税理士の仕事はどうなっていくのだろうか、税理士である自分としてはとても気になる話題です。

書籍やwebなど世間の予想を間に受けると、AIに対して恐怖心のようなものを抱きます。しかし、恐れているだけでは何も変わりません。AIとはなんなのだろうか。AIとは恐るべきものなのだろうか。むしろAIは税理士にとって味方になりうる可能性があるのではないだろうか。想像してもわからないものであるから、まずは実際にAIに触れてみよう。触れてみることでわかるものがあるかもしれない。そこで、AIといえば昨今話題に上がるChatGPTを試し始めました。

AIは税務相談に回答できるか

AIは税理士の代わりとなるのだろうか。

これを検証するために、税理士業務の一つである「顧客からの税務相談」をChatGPTが対応できるのか試してみました。ChatGPTに税務相談を入力し、どういった回答が返ってくるのかを検証しました。

ChatGPTに税務相談を入力するとすぐに流暢な日本語で回答が返ってきました。スピーディかつ理解しやすい文章であり、さらにはいつでもどこでも気軽に税務相談できるところに感心します。しかし、その回答内容を精査するといくつか間違った部分がありました。

間違いが含まれる回答であるのに、一目見ただけでは間違いのない雰囲気の文章が出力されるところから、税務知識のない方はこの回答に対して何ら疑問を持たずに信用してしまうではないでしょうか。AIの回答はあまりにも自然な文章ゆえに間違いに気づくことができない可能性があるところに恐ろしさと活用の難しさを覚えました。

web検索であれば、検索にでてくる記事は個別のことではなく主に一般的な内容、つまり、相談者の質問に直接回答する文章が記載されているわけではないので、相談者側でも本当にこの記事に書いてあることが自分に当てはまるのか無意識にチェックが入るため鵜呑みにしない可能性が高いものです。

しかし、ChatGPTでは、相談者の相談内容に対して直接回答をし、しかもその回答は理路整然としているため、相談者はまさかこの回答に間違いがあるとは思わず、そこに記載されているものは、自分の相談に対する正しい回答という認識になってしまうのではないでしょうか。

このことから、AIは税務判断の拠り所とするには心許ないもので、税理士の代わりとなり、AIが税務相談にのることは、まだ時期尚早ではないかと感じました。

では、今度は税理士が自分の業務にChatGPTを活用する可能性を考えます。顧客から受ける税務相談に対して、ChatGPTに回答を求めるのは先述した通り間違いを含む回答を導き出す可能性があるため問題が残ります。やはり、信頼ある文献にあたって調べることが第一で、次にweb検索で信頼あるサイトからの情報を参考にするのが大事だと考えます。そのため、顧客からの税務相談に対してChatGPTに回答を求めない方が良いのではと感じます。

ただし、ChatGPTの回答を鵜呑みにせずにあくまで参考程度にとどめるのであれば活用しても良いのかもしれません。なおその際は回答に、どのような資料を参考にしたのか、その回答の根拠資料などの明示があるとその回答の正確性を検証しやすくなるため、引用元の明示に関しては今後のアップデートに期待したい。

生成 A Iのこの使い方に関する特徴としては以下のものが挙げられます。 ◎最終的に生成物を採用するかどうかは人間が決定する ◎生成物の編集が容易である ◎高速で複数の候補を生成できる ◎生成されるのは最終成果物の一部分であり、本質的な部分は人間がつくり込む

 

AIは税務申告書を作成できるか

税理士業務では顧客の税務申告書の作成も主な業務として挙げられます。そこで、ChatGPTに申告書の作成ができるのだろうか試してみました。

現時点では、申告書を作成し出力することは出来ないようですが、申告する内容の具体的な条件を指定すれば税額の計算をしてくれました。しかし、ChatGPTが作成した申告書の草案の最後には、『詳細は税務専門家に相談するか、最新の税務情報を確認してください』との文言があり、専門家による確認が求められます。

ChatGPTにより出力された情報をそのまま採用するのか、それとも専門家に確認した上で採用するのか、ひとそれぞれの考え方になるのでしょうが、間違いのない申告納税を遂行するには、ChatGPTだけに依存するのはリスクが伴うことが明らかです。

また、税額を計算するにあたり、ChatGPTに申告する内容の具体的な条件を指定する必要があるのですが、この具体的な条件を指定することにも知識が必要です。条件の抜け漏れや誤りなく指定することは難易度が高く、それはつまり、ChatGPTから正しい税額を計算してもらうことの難易度の高さを表します。

A Iから望ましい出力を得るために、指示や命令を最適化するスキルが必要だと思うのです。ところが、多くの人は指示をすることがそんなに上手ではない気がします。これは、 ChatGPTなどが登場してきたこれからの社会において致命的です。

したがって、税理士の代わりとなりAIが税務申告書を作成することことも、まだ時期尚早ではないかと感じました。

現時点では、税理士が自ら作成した申告書の草案とChatGPTの草案と照らし合わせて合っているのかを検証し申告納税するといった方法が現実的なのかもしれません。ただし、この方法は二度手間になるため、実務上採用されるべき方法なのかは疑問が残ります。

 

以上のことから、間違いの可能性が残る限り、ChatGPTはそれ単体での運用にはリスクがつきまとうものです。税務相談や税務申告をChatGPTに丸投げするのはまだ現実的ではない。ChatGPTが出力するものに対しての間違いに気づく嗅覚を持つ専門家、つまり税理士が用いて税理士業務を補完するサポーターのような存在としての位置付けが妥当なのではないかと考えます。

現在の生成 A Iは事実とは異なる出力をすること(ハルシネーション)が多くあり、教育目的であっても、何か特定の事実に基づく知識(歴史上の出来事、調査に基づく統計値など)を出力させるのは避けるべきでしょう。教材を生成する使い方としては、事実が問題にならないケースや、知識などの材料をあらかじめユーザーが入力し、生成 A Iはそれを加工するだけといった場合が考えられます。

少なくとも患者の視点では、現時点で最先端の医療特化の言語生成 A Iは、すでに人間の医師と遜色ない回答ができるレベルに達しています。ただし、医療は患者の命に直接関わる分野であり、導入には慎重になる必要があります。研究上は高い性能を示していても、その評価項目は限定的なものであり、安全性、信頼性、倫理、プライバシーなど、検討すべき項目はまだ多く存在します。医師の業務効率化はともかく、診断への応用については、最終的な判断は人間の医師が行い、このような生成 A Iの出力は患者や医師の意思決定支援に使うという状況がしばらく続くと考えられます。

どちらかというと、生成 A Iは労働補完型の技術であり、既存の労働をより生産的に、より快適で質が高いものにするという説が多い印象です。ただし、完全に今の雇用が維持されるという楽観的な考えもまた少ないようです。

AIは税理士業務上の文章を作成できるか

ChatGPTは文章作成に長けているとされます。

税理士業務を行う上での文章としては、例えば顧客とのコミュニケーションをとるためにチャットを活用しています。しかし、この際にChatGPTにチャットの文章を作成してもらうには手間がかかるし、なにより自分の言葉で伝えなければ意味がないと考えるので、顧客との日々のコミュニケーションにはChatGPTを活用しないと考えます。

では、顧問契約書などの文章作成ではどうだろうか。これらは開業してからこれまでの間ですでに雛形があり、まっさらな状態で一から契約書を作成することはないため、わざわざChatGPTを活用して作成することは考えられない。しかし、これまで作成したことのない種類の契約書を作成する際には、まずはChatGPTで作成し、これを参考に自ら手直しして契約書を作成するといった活用法が良いのではないかと考えます。

医師の業務には、診察や手術のように患者を直接相手にする仕事のほか、診察記録、電子カルテなどの書類作成に関する仕事が多く存在します。医療知識を持った生成 A Iは、簡単な指示のみでこれらの文書を作成できます。あるいは、既存の医学文書やデータから必要な情報を高速に検索、要約する用途も考えられます。これらの仕事をある程度自動化できれば、より本質的な診療に集中できるようになるでしょう。

いずれにしても、税理士業務を行う上での文章作成にChatGPTがなくてはならないものであるかは、今のところは想像がつきません。

 

そのほかの活用法は何があるだろうか。まだまだ手探りの状態なので、税理士業務の効率化につながる活用法があるかもしれません。もしかしたら今現在ではそこまでの影響はなくとも、日々進化し続けるAI技術のためいつ画期的な活用法がでてくるかもしれません。

今現在で結論を決めるではなく、今後の税理士業を考える上でも、ChatGPTをはじめAI技術には触れておくことが必要なのではないかと考えます。